業務委託を利用するメリットは?契約を結ぶときの流れ・ポイントも
自社に専門知識をもつ社員がいない場合や、仕事量に対して対応できる人材が不足している場合に、業務委託を利用するという企業もあります。業務委託を利用することで効率的に業務を進められるため、生産性を高めたい場合に利用を検討する企業も多いでしょう。
そこで今回は、業務委託の概要を説明した上で、業務委託のメリット・デメリットを労働者と企業の視点から解説します。さらに、業務委託契約を結ぶ際の流れと押さえるべきポイントも紹介するので、業務委託の利用を考えている企業の方は、ぜひご一読ください。
目次
1. 業務委託とは
業務委託とは、業務の一部を外部の企業や個人に委託する業務形態です。委託者と受託者で費用・期限・業務内容などを取り決め、業務委託契約を結びます。
業務委託が活用されるのは、主に以下のような場面です。
- 自社だけでは対応できない、専門知識が必要な仕事を委託
- 電話受付業務などの後方支援的な仕事を、スタッフ・業務管理と一緒に委託
- 人手が足りない場合にクラウドソーシングを活用して委託
1-1. 業務委託の種類
業務委託の種類は、以下の3つに分けられます。
請負契約 |
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請負契約とは、成果物の完成に対して報酬を支払うという契約です。 成果物の完成までにどれくらいの時間を要し、どのような方法で業務を行ったのか、具体的な課程は問いません。定めた期間内に成果物を問題なく納品できたかという点を重視します。 請負契約を結ぶ業務には、イラストデザイン制作や記事執筆などがあります。 |
委任契約 |
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委任契約は、委託期間内に行った業務に対して報酬が発生する契約です。成果物の設定はなく、完成責任もありません。 例えば、委託者に依頼された研修を受託者が2時間実施したケースでは、委託者には2時間分の報酬を支払う義務が生じます。重要なのは仕事の達成度ではなく、どれだけの時間働いたのかということです。 委任契約は、訴訟代理人や税務顧問などの分野で結ばれています。 |
準委任契約 |
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準委任契約は、法律行為を含まない業務内容の契約です。委任契約と同様に、業務を遂行することに対して報酬を支払います。 準委任契約が結ばれるのは、法律行為を伴わない事務の委託などです。具体的には、コンサルティング業務やリサーチ、システム運営などの分野が挙げられます。 |
1-2. 派遣社員・アルバイトとの違い
業務委託を活用するためには、派遣社員やアルバイトとの違いを正しく認識しておきましょう。派遣社員とアルバイトの特徴と、それぞれにおける業務委託との違いは以下の通りです。
<派遣社員>
派遣社員は、派遣元の企業に雇用されます。その上で、派遣契約を結び派遣先で働く存在です。
業務委託と派遣社員では、指示系統が異なります。派遣社員と派遣先企業の間には、雇用関係はありません。しかし、派遣契約にもとづく業務に対し、派遣先の指揮命令の担当者から指示を受けます。
一方で業務委託は、業務の委託後は受託者が自社の従業員に仕事を指示します。委託者が受託者の従業員へ直接指示することは、偽装請負とみなされる行為です。そのため、従業員教育や業務調整などについて、委託者側は関与できません。
また、報酬面においても違いがあります。派遣社員は業務の実施時間に対して報酬が発生しますが、業務委託は成果物の納品や業務の遂行に対して報酬が生じます。
<アルバイト>
アルバイトは企業に雇用されている労働者です。
業務委託との違いは、雇用契約です。アルバイトと企業の間には雇用関係があります。そのためアルバイトは、労働基準法はもちろん、労働に関するさまざまな法律に守られる存在です。しかし、業務委託では委託者・受託者間に雇用契約はありません。
また、アルバイトの報酬は業務を実施した時間に対して発生します。一方、業務委託で報酬が発生するのは時間ではなく、納品物や業務遂行に対してです。
2. 【労働者側】業務委託のメリット・デメリット
働く側から見た業務委託の主なメリットは、以下の3つです。
労働者側のメリット |
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・働き方の自由度が高い 一般的な業務委託では、働く時間や場所を制限されることなく働けます。スケジュールによっては家事や趣味の時間も確保しやすくなるため、プライベートの充実も可能です。 ・自分の強みを生かしやすい 業務委託では請け負う業務を選べるため、自分の得意分野に特化した仕事ができます。強みを生かして成果を出すことで、社会的評価も高まるでしょう。 ・望まない業務は断れる 雇用主のいない業務委託契約では、特定の業務を強制されません。契約を結ぶまでは責任も発生しないため、興味をもてない業務の依頼は断れます。 |
また、働く側にとって、業務委託には以下のようなデメリットがあります。
労働者側のデメリット |
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・収入が安定しにくい 業務委託では、自分で仕事を獲得して業務を完了しない場合は報酬を得られません。そのため、収入が安定しにくい傾向があります。 ・労働基準法が適用されない 労働時間や最低賃金などのルールがないため、契約次第では割に合わない労働を強いられる可能性があります。また、会社員のように決まった休日はありません。 ・税務処理などを自分で行う必要がある 業務委託の場合、仕事を得るための営業や契約はもちろん、確定申告や税務処理なども自分で実施する必要があります。 |
3. 【企業側】業務委託のメリット・デメリット
企業にとって、業務委託には主に以下のようなメリットがあります。
企業側のメリット |
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・人件費を抑えられる すでに実力をもった外部の人材に仕事を依頼した場合、社員の採用や雇用保険・社会保険料にかかる費用を抑えつつ、専門性の高い業務を任せられます。 ・専門的なノウハウをカバーできる 社内では対応不可能な専門業務を要する際、新規人材の採用や社員教育には時間とコストが必要です。即戦力となる相手に業務委託すれば、採用・教育コストを抑えてノウハウをカバーできます。 ・社内の人材を有効活用できる 業務委託を利用すれば、難しい業務に手間をかけていた社内人材の手を空けることが可能です。社内人材が担当業務に専念し、得意分野に集中した場合、企業全体の生産性が高まります。 |
また、以下は業務委託の企業側のデメリットです。
企業側のデメリット |
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・人材の管理が難しい 業務委託では企業側に指揮命令権がなく、業務を委託した人材の管理が難しい面があります。 ・適切な報酬設定が難しい 業務委託は、専門的なスキルであるほどコストが上がります。適切な報酬額を判断できず、相場より高い金額を支払っている企業もあるため、事前にチェックが必要です。 ・社内にノウハウが構築されにくい 業務委託は外部の人材に依頼するため、依存しすぎた場合は社内でノウハウが蓄積しにくい傾向があります。 |
4. 業務委託契約を結ぶ際の流れ
業務委託契約は法律で定められたものではありません。しかし、委託者と受託者の業務に対する認識をそろえておくことは、トラブル防止のために大切です。ここでは、業務委託契約を結ぶ際の一般的な流れを解説します。
1 | 契約内容のすり合わせ |
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委託者・受託者間で業務について確認し、契約内容をすり合わせます。仕事内容だけでなく、納品時期や納品形式、報酬額や支払方法といった詳細の協議が重要です。業務内容によっては、秘密保持・知的財産権・損害賠償などもチェックします。 |
2 | 見積書・契約書作成 |
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すり合わせの際に報酬の取り決めができない場合、委託者は受託者から見積書を提出してもらいます。見積書の内容に問題がなければ、具体的な契約条件を決定し、委託者は業務委託契約書を作成します。契約書には取り決めた契約条件を記載しましょう。 |
3 | 契約の締結 |
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契約書の記載内容を委託者・受託者の双方で再度確認し合い、了承すれば契約締結です。受託者が契約書に署名・捺印し、双方が契約書を1通ずつ保管します。 |
4-1. 業務委託契約を結ぶときのポイント
業務委託契約を結ぶ際に、押さえておきたいポイントは以下です。
- セキュリティ対策の把握
- 成果の管理
業務を委託する以上、社外で重要な情報が扱われます。受託者が自社顧客の個人情報などを漏えいした場合、委託者である企業も責任を問われます。業務内容によって委託先を選び、また委託先のセキュリティ対策を把握することが大切です。
また、業務委託では委託した業務の質や成果物によって、トラブルに発展することがあります。業務の流れや質、成果の管理などは、あらかじめ双方で話し合っておきましょう。
まとめ
業務委託契約を結ぶことで、企業側は「人件費を抑えられる」「専門的なノウハウをカバーできる」「社内の人材を有効活用できる」といったメリットがあります。労働者側としては、「働き方の自由度が高い」「自分の強みを生かしやすい」などがあり、条件がマッチした場合は双方にとって大きなメリットがある業務形態です。
一方で、報酬や手続きなどでデメリットを感じる場面もあるため、よく検討した上でベストな方法を選択しましょう。
業務委託契約を結ぶ際は、契約内容のすり合わせはもちろんのこと、委託先のセキュリティ対策を把握することも大切です。成果の管理についてもあらかじめ双方で話し合い、納得のいく形で業務を委託しましょう。