日本企業の平均的な離職率は?離職の原因や離職率の改善方法も解説
日本の労働市場における離職率は、経済や産業の健全性を示す指標の1つとされています。離職率とは、特定の期間内に企業を離れる社員の割合を指し、その背後には多様な労働環境や社会的要因が影響しています。
厚生労働省が行う「雇用動向調査」では、離職率の算出方法が示されており、この数値を通じて、労働者がどのように職場環境や待遇に応じて動いているのかを探ることが可能です。
この記事では、日本の平均的な離職率、離職率が高い職場の特徴、離職率の改善方法について解説します。
目次
1.日本の平均的な離職率とは
離職率とは、一定期間にどのくらいの社員(常用労働者)が離職したかを示す割合を指します。離職率の定義や計算式は法律で定められているわけではなく、調査を行う企業や目的によって異なることに留意しましょう。なお、厚生労働省「雇用動向調査」では、離職率を以下のような計算式を用いて定義しています。
離職率=(離職者数÷1月1日現在の常用労働者数)×100離職率=(離職者数÷1月1日現在の常用労働者数)×100
厚生労働省「雇用動向調査」によると、2022年における常用労働者全体の平均的な離職率は15.0%であり、男性は13.3%、女性は16.9%となっています。また、就業形態別に見ると、一般労働者の離職率は11.9%であるのに対し、パートタイム労働者の離職率は23.1%とやや高い傾向にあります。
1-1.新卒社員の平均的な離職率
新卒離職率は、高校や大学を卒業してすぐに就職した社員(新卒社員・新入社員)のうち、どのくらいの社員が一定の期間内に離職したかを示す割合を指します。対象期間は企業によって異なる場合がありますが、入社3年以内に離職した方を対象とする場合がほとんどです。
新卒離職率が注目される背景として、新卒社員を含む若い世代の離職率が他の世代と比べて高いことが挙げられます。厚生労働省「雇用動向調査」によると、2022年における離職率の平均は24歳以下で32.9%、25歳以上で13.7%となっています。企業全体の離職率を低下させ、人材の定着・確保を図るためにも、新卒社員の早期離職を防ぐ必要があるでしょう。
厚生労働省の別の調査によると、2020年春に卒業・就職した新卒社員における就業後3年以内離職率は、高卒就職者で37.0%、大卒就職者で32.3%です。事業所規模別・最終学歴別の新卒離職率の傾向は、次の通りです。
【2020年卒・新規学卒就職者の事業所規模別就職後3年以内離職率】
※()内は前年比増減
事業所規模 | 高校(%) | 大学(%) |
---|---|---|
5人未満 | 60.7(+0.2) | 54.1(▲1.8) |
5~29人 | 51.3(▲0.4) | 49.6(+0.8) |
30~99人 | 43.6(+0.2) | 40.6(+1.2) |
100~499人 | 36.7(+1.6) | 32.9(+1.1) |
500~999人 | 31.8(+1.7) | 30.7(+1.1) |
1,000人以上 | 26.6(+1.7) | 26.1(+0.8) |
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)を公表します」
厚生労働省のデータによると、新卒社員の入社3年以内離職率は、事業所規模によって異なり、規模が大きいほど離職率が低い傾向があることが分かります。規模が比較的小さい中小企業は、特に新卒社員の早期離職を防ぐ施策に力を入れる必要があるでしょう。
1-2.産業・業界別の平均的な離職率
離職率は年齢や性別、就業形態によっても異なりますが、産業・業界によっても大きく異なります。ここでは、業界別の平均的な離職率について解説します。
【2022年・産業別の離職率】
産業名 | 離職率(%) |
---|---|
宿泊業、飲食サービス業 | 26.8 |
サービス業(他に分類されないもの) | 19.4 |
生活関連サービス業、娯楽業 | 18.7 |
医療、福祉 | 15.3 |
教育、学習支援業 | 15.2 |
卸売業、小売業 | 14.6 |
不動産業、物品賃貸業 | 13.8 |
運輸業、郵便業 | 12.3 |
情報通信業 | 11.9 |
複合サービス事業 | 11.0 |
電気・ガス・熱供給・水道業 | 10.7 |
建設業 | 10.5 |
製造業 | 10.2 |
学術研究、専門・技術サービス業 | 10.0 |
金融業、保険業 | 8.3 |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 6.3 |
上記のデータから、宿泊業、飲食サービス業などのサービス業は離職率が高く、金融業や保険業、鉱業、採石業などでは離職率が低い傾向にあることが分かります。離職率の高さは業界によって傾向が大幅に異なるため、自社の離職率について考える際には同じ業界の平均的な水準を指標として比較・評価するとよいでしょう。
2.離職率が高い職場の特徴
会社を退職する理由は人によってさまざまですが、労働環境や勤務条件など企業側の問題で離職を決意する社員も少なくありません。自社の離職率が同業界の平均よりも高い企業の方や、離職率の高さに悩んでいる企業の方は、自社の環境が下記のような特徴に該当していないか確認しましょう。
【離職率が高い職場の特徴】
- 社員の待遇や福利厚生が十分ではない
- 客観的で社員が納得できる評価制度が十分に整備されていない
- 働き方の選択肢が少なく、家庭やプライベートとの両立を図りにくい
- 退職者が退職に至った原因を把握・分析できていない
社員の待遇や福利厚生、評価制度などのシステムは、人材の定着やモチベーションの高さと密接な関係があります。「業務の割に給与が低い」「大きな成果を出しても評価されない」といった環境では、優秀な人材は企業側に不満を持ち、離職や転職を考えるようになる可能性が高いでしょう。
また、社員へのフォローが行き届いておらず、離職理由を十分に把握・分析できていないケースがあることにも注意が必要です。自社に多い離職理由をきちんと把握した上で、離職率の改善方法を検討しましょう。
3.高い離職率の改善方法
職場の離職率の高さを改善するためには、社員が働きやすい環境を整え、社員のエンゲージメントが向上するような施策を実行することが大切です。社員の離職を防ぎ離職率を改善する方法には、下記4つの対策が考えられます。
【離職率を改善する4つの方法】
- 退職者から退職の原因をヒアリングする
- 待遇や福利厚生を見直す
- 評価制度を改善する
- 柔軟な働き方が可能な職場環境にする
ここでは、4つの改善方法について詳しく解説します。
3-1.退職者から退職の原因をヒアリングする
自社に適した離職防止対策を考えるためには、離職を希望する社員から退職の原因をヒアリングし、自社の問題点を可視化することが大切です。離職希望者から本音を聞き出すことは難しい場合があるため、次のようなポイントを押さえた上で面談やアンケートなどを実施しましょう。
【退職者から退職理由をうまくヒアリングする方法】
- 退職手続き完了後にヒアリングを行う
- 直属の上司ではなく、人事担当者や第三者機関が面談を行う
- 業務の引継ぎなど、退職理由のヒアリング以外の話題を混ぜない
また、調査結果は情報漏洩が起こらないよう慎重に一元管理し、経営層やマネジメント層と共有することも大切です。調査結果を分析し、社内の環境や離職率の改善に活用しましょう。
3-2.待遇や福利厚生を見直す
離職率を改善するためには、社員の待遇を見直すことも有効です。近年では働き方改革の推進により、長時間労働の是正が進められてきましたが、長時間労働が常態化し改善されていない組織も少なくありません。労働基準法など労働時間に関する規定を基準として、「残業が多くないか」「休暇をとりやすい環境か」を確認し、離職率改善を図りましょう。
また、給与体系や福利厚生の見直しを行うことも離職率の改善につながります。基本給や賞与だけでなく、成果に応じた報酬が得られるインセンティブ制度や、住宅補助・資格取得支援など社員のニーズに合った福利厚生の導入を検討しましょう。
3-3.評価制度を改善する
明確な評価制度が整備されておらず、上司の主観やその場の雰囲気で評価が決まる職場では、社員のモチベーションが低下しやすく優秀な人材が離職する恐れがあります。客観性・公平性の高い評価制度を採用し、大まかな評価基準を社員に公開するなど、社員が納得感を抱きやすいシステムを構築しましょう。
評価基準が明確になると、社員が自身の評価を上げるための目標や行動を考えやすくなります。企業や業務に対する愛着心が育まれるだけでなく、業務効率化や生産性向上にもつながるでしょう。
3-4.柔軟な働き方が可能な職場環境にする
離職率を改善するためには、結婚や育児、介護、社員自身の病気・ケガなどで出勤が難しい場合でも離職せずにすむよう、柔軟な働き方が可能な職場環境にすることも重要です。下記のような働き方を参考に、自社の業態や社員のキャリア、スキルに合った雇用形態を検討しましょう。
【柔軟な働き方の例】
- フレックスタイム制度
- 出退勤時間の選択制度(スーパーフレックス制度)
- 在宅勤務、テレワーク
- シフト制
- 週休3日制
- 短時間勤務制度
まとめ
厚生労働省の「雇用動向調査」から得られるデータは、離職率が個人のキャリア選択、企業文化、経済状況にどのように影響されているかを理解する上で貴重な情報です。特に、新卒社員の離職率や産業・業界別の離職率の違いからは、企業が直面する人材確保や育成の課題が浮かび上がります。
離職率が高い職場の特徴を理解し、その改善方法を探求することは、企業が持続可能な成長を遂げるために不可欠です。労働環境の向上、適正な評価制度の確立、柔軟な働き方の促進は、離職率を下げる上で重要なポイントとなります。今後も、労働市場の動向を見守りながら、人材の定着と育成に向けた取り組みがより一層求められていくことでしょう。