単発(日雇い)での人材派遣は原則禁止?例外の条件を解説
企業活動においては、短期間の需要で労働者が必要なシーンは多々あります。スポットでの労働力確保のために、単発(日雇い)での人材派遣を利用したいと考えている企業経営者・労務担当者は少なくないでしょう。
しかし、単発での人材派遣を利用する場合は、実はいくつか注意すべき点があります。
そこで今回は、単発での人材派遣が原則禁止であることから、例外として単発での人材派遣が可能となるケース、単発での人材派遣を利用する際の注意点までを解説します。単発での人材派遣は法律が絡む問題であるため、正しい知識を持てるように、ぜひ参考にしてください。
目次
1.単発(日雇い)の人材派遣は原則禁止
単発(日雇い)での人材派遣を検討している企業が前提として知っておくべきことが、「単発での人材派遣は原則禁止」であるということです。
単発での人材派遣は、スポットでの労働力が欲しい企業側からもスポットで働きたい労働者側からも一定のニーズとメリットがある派遣契約となります。
1999年の労働者派遣自由化以降に、単発での人材派遣はブームとなり積極的に活用されていました。しかし、労働条件・雇用条件の問題が頻発したことから、2012年施行の改正労働者派遣法以降は、単発での人材派遣は原則禁止となっています。
単発での人材派遣(日雇い派遣)であるか、どうかの判断例は、下記の通りです。派遣契約を検討している場合は、ぜひ参考にしてください。
- 労働契約の期間が1日の場合(例 10月6日の1日のみの仕事の場合)→日雇派遣にあたる
- 労働契約の期間が30日の場合(例 11月の1ヶ月間の仕事の場合)→日雇派遣にあたる
- 労働契約の期間が31日の場合(例 12月の1ヶ月間の仕事の場合)→日雇派遣にあたらない
- 労働契約の期間が10月1日から11月30日の場合で、複数の短期の仕事を組み合わせて行う場合→日雇派遣にあたらない
- (5)労働契約の期間が14日間で、元々1年間の労働契約を結んでいたが、業務上の都合で延長の必要性があり、追加で新たに結ぶ場合→14日間の新たな契約は日雇派遣にあたる
2.単発の人材派遣が可能な「例外の業務」とは?
単発での人材派遣は原則禁止されていますが、適切な雇用管理に支障がないと国が認める業務である場合は、例外として単発での人材派遣が認められています。
例外事由に当てはまる業務には、下記が挙げられます。
■禁止の例外として認められる業務
- ソフトウェア開発
- 機械設計
- 事務用機器操作
- 通訳・翻訳・速記
- 秘書
- ファイリング
- 調査
- 財務処理
- 取引文書作成
- デモンストレーション
- 添乗
- 受付・案内
- 研究開発
- 事業の実施体制の企画・立案
- 書籍などの制作・編集
- 広告デザイン
- OAインストラクション
- セールスエンジニアの営業・金融商品の営業
出典:厚生労働省「クローズアップ 知っておきたい改正労働者派遣法のポイント」
例外が認められている業務には、高度な専門性が必要な業務が多いという傾向があります。反対に、製造業のライン作業などの高い専門性が必要とされない業務については、単発での人材派遣は認められていません。
3.単発の人材派遣が可能な「例外の労働者」とは?
単発の人材派遣は例外業務に該当しない場合は原則禁止とされていますが、例外条件に該当する労働者であれば、例外業務に該当しない場合でも業務の依頼は可能です。
単発での人材派遣が可能な例外の労働者には、下記の人が該当します。
- 60歳以上の人
雇用契約が難しくなる年齢であるため、単発での人材派遣が可能となります。- 定時制・通信制学校以外の学生
昼間学生は学業が本分であるため、例外として単発での人材派遣が認められています。- 生業収入500万円以上で副業として働きたい人
本業での安定的な収入が確保されているため、副業として例外が認められています。- 世帯収入500万円以上の主たる生計者以外の人
世帯での収入が十分に確保できていると判断されるため、例外として認められています。
出典:厚生労働省「クローズアップ 知っておきたい改正労働者派遣法のポイント」
ここでは、上記の例外の労働者について、それぞれの例外事由を中心に詳しく解説します。
3-1.60歳以上の人
60歳以上の人は、雇用される機会が少ない理由から例外として単発での人材派遣が認められています。
数え年ではなく満年齢で判断されるため、雇用された時点での年齢が60歳以上であることが必須となります。年内で60歳を迎える現在59歳の人は、単発での人材派遣が認められないため、注意しましょう。
3-2.定時制・通信制学校以外の学生
定時制・通信制学校以外のいわゆる「昼間学生」は、本業が学業であることに加えて、雇用機会が少ないことから、単発での人材派遣の例外として認められています。
ただし、昼間学生の人であるだけではなく、雇用保険の対象外であることも条件として満たさなければなりません。また、昼間学生であっても内定先の会社で既に働いている人などは、単発での人材派遣の例外とはならないため、注意が必要です。
3-3.生業収入500万円以上で副業として働きたい人
複数の収入源がある場合に、最も大きな収入のことを生業収入と呼びます。多くの人は主に本業の収入が生業収入に該当します。複数の収入源の合計ではない点に、注意しましょう。
生業収入が500万円以上ある人は、十分に安定した収入を得ていると判断されるため、副業として単発での人材派遣が認められています。例えば、本業が年収600万円・副業が年収50万円の会社員の場合は、生業収入が500万円を上回っているため、副業として単発での人材派遣で働くことが可能です。
3-4.世帯収入500万円以上の主たる生計者以外の人
世帯年収とは、同じ住居で暮らす家族の合計年収のことです。主たる生計者とは、世帯で最も多くの年収を得ている人を指します。
世帯年収が500万円以上であれば、世帯の収入が十分に確保されていると判断されます。また、主たる生計者以外の人であれば世帯年収への影響が少ないことから、単発での人材派遣が認められています。
例えば、夫の年収が450万円・妻の年収が100万円である場合、世帯年収は550万円となるため、主たる生計者ではない妻は単発での人材派遣で働くことが可能です。
4.単発での人材派遣を利用したい場合は?
企業活動において、繁忙期や一時的な人手不足の際など、単発での人材派遣を利用して労働力を確保したい場合があるでしょう。
ここでは、企業が単発での人材派遣を利用したい場合の方法や、利用時の注意点について解説します。単発での人材派遣は基本的に推奨されませんが、どうしても利用したい場合に備えて、ぜひ確認しておいてください。
4-1.例外に該当することを確認する
単発での人材派遣を利用したい場合は、原則禁止のルールに抵触しないために、依頼する業務の内容および依頼する人材が、例外に該当するかを入念に確認する必要があります。
例外に該当しない業務に例外の労働者を採用する場合は、問題が発生しやすいため、特に注意が必要です。採用前に書類を確認するなどして、例外の条件を満たしていることを必ず確認してください。
例外に該当する業務および例外に該当する労働者、いずれの条件も満たせない場合は、コンプライアンスの観点から単発での人材派遣の利用は控えたほうが良いでしょう。
4-2.単発バイトの利用は控えるべきでは?
単発での人材派遣の原則禁止という制限を受ける対象は人材派遣会社であるため、依頼する企業側には法的な責任はありません。しかし、近年は企業のコンプライアンスが重視される風潮にあるため、制限や責任がないという理由で躊躇なく単発派遣を利用することには、リスクが伴います。
例外条件を満たさない単発での人材派遣を行って、法的に責任が問われないとしても、社会的な責任や企業のイメージに影響を与える可能性があります。特に、近年は労務管理に関するコンプライアンスが非常に重視されているため、安易な単発派遣の利用は好ましくありません。
まとめ
単発での人材派遣は、スポットで労働力を確保したい場合には非常に便利なサービスです。しかし、単発での人材派遣は原則禁止であるため、企業が利用する場合には例外となる条件を満たしていることを慎重に精査する必要があります。
通訳などの国が指定する例外業務に該当すると、単発での人材派遣が可能となります。また、60歳以上の人や昼間学生なども例外の労働者として、単発での人材派遣が可能です。
例外となる条件を満たしていなくとも依頼した企業側に法的な責任はありませんが、コンプライアンス違反のリスクが高まるため、安易な利用は控えるようにしましょう。