【人事向け】派遣から直接雇用にするメリット・切り替える流れを解説
国も派遣労働者の安定雇用を推進し、企業に対し直接雇用を促しています。しかし、派遣社員から直接雇用へ切り替える際には、雇用者が守るべき義務や配慮すべき要件が存在するので注意が必要です。
当記事では、直接雇用への切り替えにあたっての努力義務や情報提供義務など、企業側が守るべき法的な義務や、雇用方法の切り替えによる企業側のメリットやデメリットを詳しく紹介します。派遣社員と企業の双方にとって適切で効果的な直接雇用の実現に向けて、必要な手続きやポイントを知っておきましょう。
目次
1. 派遣から直接雇用するときに知っておきたい義務
「直接雇用」とは、企業が派遣会社を通さずに、労働者と直接雇用契約を結ぶ形態を指します。
派遣雇用では、派遣社員は派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で業務を行います。しかし直接雇用に切り替えることで、派遣社員は派遣先企業の従業員として雇用され、労働条件の安定やキャリアアップの可能性が高まります。国も、派遣社員の雇用安定を図るため、派遣先が積極的に直接雇用に切り替えることを推奨しています。
派遣社員を直接雇用する際には、雇用者の努力義務や情報提供義務など、法的なルールや義務が存在します。ここでは、直接雇用に関わる義務について解説します。
1-1. 雇入れ努力義務
「雇入れ努力義務」とは、派遣先企業が有期雇用の派遣社員に対して、一定の条件を満たした場合、直接雇用を検討するよう努める義務を指します。この努力義務には、主に3つの要件があります。
1つ目の要件は、派遣社員が1年以上、同じ業務に従事していることです。派遣先企業にとっても、長期間の業務経験を積んだ派遣社員は貴重な戦力であり、直接雇用によってさらなる業務の安定や効率化が期待できます。
2つ目の要件は、派遣先企業が業務の継続が見込まれる場合です。派遣社員が担当する業務が今後も必要とされるのなら、企業は派遣社員が持つスキルや業務知識をさらに活用できます。
3つ目の要件は、派遣社員自身が直接雇用を希望していることです。企業と派遣社員双方の合意がなければ直接雇用は成立しないため、派遣社員の意思も重視されます。
なお、この雇入れ努力義務は有期雇用の派遣社員に限定されており、無期雇用の派遣社員や他の雇用形態には適用されません。特定の条件を満たした派遣社員に対し、企業は積極的に直接雇用を検討する義務を負っています。
1-2. 募集情報の提供義務
「募集情報の提供義務」とは、派遣先企業が一定の条件を満たした派遣社員に対し、自社の社員募集に関する情報を提供する義務です。派遣社員が派遣先での正社員化を目指せるよう支援することを目的に設けられています。派遣先企業は、直接雇用の可能性を周知し、派遣社員に将来的なキャリアの選択肢を示すことが求められます。
派遣先が募集情報を提供する方法は、掲示板への掲示、社内イントラネットの利用、電子メールなどです。この制度により、派遣社員はより長期的なキャリア形成を視野に入れられます。
2. 企業が派遣から直接雇用に切り替えるメリット
派遣から直接雇用への切り替えは国から推奨されているものの、派遣社員だけではなく企業にとっても複数のメリットがあります。ここでは、具体的なメリットについて詳しく解説します。
2-1. 採用コストを削減できる
企業が派遣社員を直接雇用に切り替えることにより、採用コストの大幅な削減が期待できます。
通常、新規採用には求人広告の掲載費やエージェント手数料、面接や選考にかかる時間といった多額の費用が発生します。すでに社内で業務をこなしている派遣社員を直接雇用に切り替えることで、採用にかかるコストを抑えられます。
また、派遣社員は既に社内の業務や企業文化に精通しているため、入社後の教育や研修も省け、スムーズな業務遂行が可能です。派遣社員を直接雇用に切り替えることは、企業にとってコスト面での負担を軽減し、効果的に人材を確保できる手段です。
2-2. 優秀な人材を獲得しやすい
派遣社員として実際に業務をこなす中で、企業はその人材の適性やスキル、業務に対する姿勢を見極められます。優秀な派遣社員を直接雇用に切り替えることで、すでに実績や信頼関係が築かれている人材を確実に採用できる点が大きなメリットです。
面接や書類審査だけでは判断しきれない適性や、職場での相性を事前に把握した上で雇用できるので、採用後のミスマッチも起こりにくくなります。結果的に企業は効果的に優秀な人材を確保し、長期的な組織力の強化にもつなげられます。
2-3. 範囲の広い仕事を任せられる
派遣社員を直接雇用すると、企業はその人材に対してより幅広い業務を任せられます。派遣契約では、業務範囲が限定されていることが一般的ですが、直接雇用に切り替えると、より責任のあるプロジェクトや専門的な業務にも参加してもらえるようになります。
企業は社内のリソースを効率的に活用し、社員一人ひとりの業務遂行能力を引き出すためには、自社にマッチしている派遣社員を直接雇用することが必要です。また、直接雇用になると従業員としての責任感も高まり、主体的な働きかけが期待できるので、業務の発展にもつながるでしょう。
3. 企業が派遣から直接雇用に切り替えるデメリット
派遣から直接雇用に切り替えるとさまざまなメリットがあるものの、同時に複数の注意点もあります。管理コストや解雇のハードルについては、直接雇用に踏み切る前に把握しておくとよいでしょう。
3-1. 簡単に解雇できない
企業が派遣社員を直接雇用する場合、派遣契約に比べて解雇のハードルが高くなります。派遣契約では契約期間が終了すれば雇用関係も終了しますが、直接雇用になると、解雇には正当な理由が必要となり、法的にも厳格に規定されています。
直接雇用に切り替えた人材が万が一、期待に応える働きをしなかったり、経営状況が悪化したりした場合でも、容易に解雇することが難しく、企業にとってはリスクとも言えます。直接雇用することで人材が安定する反面、労働契約法に基づく解雇制限が適用され、慎重な人材マネジメントが求められる点は、企業にとっての負担です。
3-2. 業務の負担や管理コストが増加する
直接雇用に切り替えることで、企業側には派遣契約時には発生しなかった新たな管理コストがかかります。社会保険や年次有給休暇などの福利厚生の負担が増え、従業員としての待遇を整える必要が生じます。
また、職務内容の明確化やキャリアアップ支援、キャリアにあった研修など、長期的な人材育成の責任も企業側に発生します。さまざまな管理コストが増加する可能性があり、企業の負担が大きくなる点には注意しましょう。
4. 派遣から直接雇用に切り替える流れ
派遣社員を直接雇用に切り替える際は、事前の準備や調整が必要です。準備や手続きは、次のような流れで行います。
1 | 直接雇用する目的を派遣社員に伝える |
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派遣社員に対して安定した雇用を提供し、業務の継続性や専門性を高めたいなどの意図を説明すると、派遣社員も安心して切り替えを受け入れやすくなります。派遣社員が直接雇用へのメリットを理解することは、モチベーション向上にもつながり、スムーズな直接雇用に役立ちます。 | |
2 | 派遣元企業との契約内容を確認する |
派遣社員と直接雇用契約を結ぶにあたって、派遣会社との契約条件や派遣契約の残存期間などを把握しておきましょう。違約金や契約解除に伴う条件を確認し、切り替えの際のトラブルを未然に防ぎます。 | |
3 | 派遣会社に直接雇用の意向を伝える |
派遣会社には、派遣社員を直接雇用に切り替えたい旨を正式に伝え、双方でスケジュールや手続きに関する合意を得ます。派遣会社側の協力のもとで移行を進めることで、より円滑な切り替えが期待できます。 | |
4 | 労働条件を設定して派遣社員に提示する |
直接雇用にあたって、給与や勤務時間、福利厚生などの労働条件を新たに定め、派遣社員に提示します。条件提示は、派遣社員が直接雇用を承諾するための重要な要素となるため、公平かつ透明性のある条件を設定するよう求められます。また、直接雇用後のキャリアパスや評価制度についても具体的に説明することで、派遣社員の不安を軽減できます。 | |
5 | 切り替えに必要な保険や税務の手続きを行う |
直接雇用になると、派遣社員の社会保険加入や雇用保険の手続き、年末調整などが必要です。企業側が責任をもって迅速に対応すると、派遣社員は安心して新しい職場環境で働けます。また、税務面でも適切な手続きを行い、従業員としての権利や福利厚生を確保する必要があります。 |
派遣社員を直接雇用に切り替える際は、各プロセスを丁寧に進め、企業と派遣社員双方にとって円滑な手続きを行いましょう。
まとめ
派遣社員を直接雇用に切り替えることで、企業は採用コストの削減や優秀な人材の確保、業務の拡大といったメリットを享受できます。一方で、解雇のハードルや管理コストの増加といったリスクも伴うため、事前の十分な準備と社内調整が不可欠です。
企業と派遣社員の双方が信頼関係を築くことで、長期的なキャリア形成が可能になります。企業が派遣社員を直接雇用する際は、スムーズな移行を目指して、段階ごとに丁寧に進めましょう。