再雇用制度とは?定年退職者を再雇用する流れと注意点【担当者向け】
多くの企業では定年制度が設けられており、定年を迎えた従業員は退職することが一般的です。しかし、公的年金の受給が開始する65歳までに定年を迎えた従業員の中には、再雇用を希望する方が少なくありません。また、高齢化社会の進行による人材不足から、企業側から再雇用を希望することもあります。
当記事では、定年退職者の再雇用に関する制度の概要やメリットのほか、再雇用を行う方法や流れについて解説します。再雇用する際の注意点も併せて確認し、人材不足の解消や人事労務コスト・人件費の削減に繋げましょう。
目次
1.再雇用とは?
日本の「再雇用制度」には、大きく分けて次の2種類があります。
〇定年後再雇用
定年に達した従業員と再び雇用契約を結び、継続して働いてもらうための制度
〇再雇用
妊娠や出産、育児などの理由で退職した方を、退職前に在籍していた企業が改めて雇用する制度。
以下では、定年退職者の再雇用制度について解説します。定年退職者を再雇用するメリットも併せて確認しましょう。
1-1.継続雇用制度(再雇用制度)とは?
日本では多くの企業が定年制度を採用しており、「60歳」や「63歳」など、65歳未満を定年とする企業が多く見られます。65歳未満を定年とする場合、「高年齢者雇用安定法第9条」の「高年齢者雇用確保措置」により、65歳までの安定した雇用を保障する義務があることに注意が必要です。
【高年齢者雇用確保措置】
(1)定年引上げ
(2)定年に関する規定の廃止
(3)継続雇用制度の導入
定年後再雇用制度は、上記(3)の「継続雇用制度」の1つに該当します。継続雇用制度には、定年後再雇用制度以外に「勤務延長制度」もあるため、2つの制度の違いを正しく把握しておきましょう。
〇定年後再雇用制度
従業員が定年を迎えた際に一度退職し、改めて雇用契約を結ぶ制度
〇勤務延長制度
定年を迎えた際に退職をせず、定年延長によって雇用契約を継続し、勤務を延長する制度
また2021年4月より、定年後の雇用確保措置を70歳まで引き上げる努力義務が課されるようになりました。
今後は70歳以上の方も安心して働けるように、すでに再雇用制度を導入している企業においても環境の改善が必要となるでしょう。
1-2.再雇用のメリット
定年退職者の再雇用は、定年を迎えた従業員だけでなく、企業側にも次のようなメリットをもたらします。
【再雇用のメリット】
- 従業員の経験をそのまま活かせる
- 顧客関係や、社員間の関係を継続させられる
- 採用コストや教育コストを削減できる
- 助成金や給付金を受け取れる
◯従業員の経験をそのまま活かせる
従業員が定年までに培った経験やスキル、能力をそのまま活かせるため、企業の生産性低下を防げます。経験を活かして若手人材の育成に携わってもらうことも可能でしょう。
◯顧客関係や、社員間の関係を継続させられる
担当の顧客との関係性を継続できるため、顧客を失うリスクを軽減できます。社内の人間関係も変わらないため、周りの現役従業員も今までどおり働けるでしょう。
◯採用コストや教育コストを削減できる
別の人材を新規採用する必要がないため、採用コストや教育コストの負担を抑えられます。
◯助成金や給付金を受け取れる
定年退職者を再雇用した場合、一定の条件を満たすことで助成金や給付金を受け取れます。「65歳超雇用推進助成金」「高年齢雇用継続給付」などの支援制度があるため、自社や社員に適した制度を活用しましょう。
2.定年退職者を再雇用する流れ
再雇用を行う際は、後々のトラブルを避け、事務コストを削減するために、事前に事務手続きを整備・確認しておくことが大切です。
ここでは、実際に再雇用を行う際の手順とポイントを紹介します。社内の人事・労務制度と照らし合わせながら、見落としがないか確認しましょう。
2-1.退職者への意思確認
定年後再雇用制度の対象者は、基本的には定年退職を迎える従業員のうち、「再雇用を希望する」と回答した方全員です。対象者全員に対して再雇用に関する通知を個別に行い、希望者全員に「再雇用希望申出書」を作成・提出してもらいましょう。
なお、「再雇用を希望しない」「再雇用の条件が希望条件と合わない」などの理由で、再雇用とならない場合には、そのまま退職手続きを進めて定年退職となります。ただし、再雇用制度などの措置を設けることは事業者に義務付けられているため、従業員が定年退職を選ぶ場合には「再雇用辞退申出書」の提出を依頼しましょう。
2-2.雇用条件の提示
意思確認を終えたら、再雇用希望者と個別に面談を行い、再雇用にあたる雇用条件(労働条件)を提示し、内容を説明しましょう。
【再雇用の際に提示する雇用条件】
雇用形態 | 再雇用の場合、定年後も同じ条件で雇用契約を結ぶ必要はありません。「正社員」「契約社員」「パート社員」など、再雇用後の雇用形態は必ず明示しましょう。 |
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契約更新期間 | 嘱託社員のような有期雇用契約を結ぶ場合、「1年ごとに契約更新」など契約更新期間を明確に提示してください。 ※65歳までは契約更新することが前提 |
賃金 | 再雇用にあたり、雇用形態・勤務形態に応じた賃金を改めて設定することが一般的です。また、退職前の役職を継続しない場合は、基本的に手当なども減額となります。しかし給与水準が下がると、従業員の不満やモチベーション低下に繋がりやすいため、本人のスキル・経験と希望を踏まえ柔軟に対応しましょう。 |
諸手当 | 通勤手当や住宅手当、家族手当など、定年前に支給していた諸手当は、再雇用後も支給することが基本です。 |
休暇 | 休日や有給休暇など、休暇の規定も明確に提示しましょう。 |
雇用形態や契約更新期間、賃金、労働環境など、定年前の雇用条件と変更がある会社も多いでしょう。変更点は特に丁寧に説明し、お互いの認識にズレがないかチェックすることが重要です。
2-3.再雇用の決定と諸手続き
再雇用の条件に労使双方が合意し再雇用が決まったら、企業側は雇用契約書の準備などといった、雇用契約の締結手続きを進めます。一度退職扱いとなるため、退職届を提出してもらい、退職金制度を設けている場合は支給手続きも行ってください。
また、雇用条件によっては雇用保険や健康保険、厚生年金保険といった社会保険関係の変更もあります。それぞれの制度の適用対象を把握し、適切な対応を行いましょう。
3.定年退職者の再雇用を行う際の注意点
定年退職者の再雇用には様々なメリットがあるものの、事前の準備が不足していると再雇用をスムーズに進められない恐れがあります。
ここでは、定年退職者を再雇用する場合の3つの注意点を確認しましょう。
【再雇用における注意点】
- 条件のすり合わせを行う
- モチベーション低下を防ぐ
- 社内制度を整える
◯条件のすり合わせを行う
再雇用を機に給与・賞与の減額や、仕事内容・業務内容の変更があった場合、再雇用者が不満を抱く恐れがあります。再雇用制度を活用する際には、条件のすり合わせを行い、双方が納得する条件で契約を締結しましょう。
◯モチベーション低下を防ぐ
再雇用後に、年収や雇用形態などの条件の変化により、再雇用者の仕事に対する意欲が下がるケースがあります。再雇用者と定期的に面談を行い、個々の目標設定を行うなど、モチベーション維持のための細かな調整も必要です。
◯社内制度を整える
再雇用に関する勤務管理や評価基準・評価制度が整っていない場合、人事面の業務が煩雑化する恐れがあります。事前に社内制度を整備し、人事業務や労務関連業務に関する業務効率化向上にも繋げましょう。
まとめ
再雇用制度は「高年齢者雇用確保措置」に含まれる継続雇用制度の一つとして、65歳未満を定年とする企業で活用されています。従業員だけでなく、企業側にも人材確保などの観点からメリットの大きい制度であると言えるでしょう。
再雇用を行う際には、プロセスに沿って対象者と面談し、条件のすり合わせをしっかりと行いましょう。退職の手続きが一度必要となる点にも注意が必要です。再雇用制度を活用し、人材不足の解消・労働力の確保や人事労務コスト・人件費の削減を実現しましょう。