インターナルモビリティとは?概要やメリット・デメリットを解説
インターナルモビリティは、個々の社員が自分で主体的にキャリアパスを描き、企業内の各部署へと人事異動の希望を出すことができる仕組みです。自分のスキルやキャリア目標に合った部署へと異動できるため、社員の仕事に対するモチベーションが上がり、積極的にチャレンジする風土を培えます。ただし、異動の自由が利く人事制度にはデメリットもあるため、自社の状況に合っているかを確認した上で、導入の体制を作ることが大切です。
この記事では、インターナルモビリティの概要や代表的な制度、グローバルモビリティとの違い、メリット・デメリットおよび導入の注意点を解説します。
目次
1.インターナルモビリティの概要
インターナルモビリティとは、internal(内部の)とmobility(流動性)を組み合わせた用語で、社員の希望に合わせて組織内の人事異動を行う制度です。
通常の人事異動は、人事部が決定した人員配置や上司の指示によって行われます。
対してインターナルモビリティでは、社員からの積極的な能力の売り込みやポジションへの応募にもとづいて人事異動を行います。社員の生産性向上やエンゲージメントを高められるとして、インターナルモビリティは注目されている人事異動の方法です。
1-1.インターナルモビリティに含まれる制度
インターナルモビリティに含まれる代表的な制度としては、「社内FA制度」と「社内公募制度」の2つがあります。
社内FA制度 |
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社内FA制度は、社員が自分の経歴・スキル・実績などを希望部署へとアピールして、人事異動を自由に希望できる制度です。 社員が主体的に人事異動に臨めるようになり、キャリアパスの実現につながります。 |
社内公募制度 |
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社内公募制度は、人材を必要としている部署が職種・ポジションなどの条件を開示して社内向けに人員募集を行い、希望する社員が応募できるようにする制度です。応募した社員は面談を行った後に、人事異動の可否が決定されます。 社内公募制度は増員を求めている部署や、新プロジェクトメンバーの社内採用などで活用される制度です。募集するポジションに合致する希望者の応募が期待できます。 |
社内FA制度は異動をしたい社員が主体であるのに対し、社内公募制度は人員を必要としている部署が主体である点が違いです。
インターナルモビリティとして2つの制度を活用する際は、それぞれの違いを理解しましょう。
1-2.インターナルモビリティとグローバルモビリティの違い
インターナルモビリティと似た用語には「グローバルモビリティ」があります。
グローバルモビリティは、global(世界的な)と mobility(流動性)を組み合わせた用語で、異なる国・地域間における人事異動のことです。
グローバル化を進める企業は海外拠点において、国際的な視点で業務を遂行でき、かつ当該国・地域のローカルルールなどを熟知した多様性ある人材を採用する必要があります。国外での事業展開を目的とした人材採用を行い、国際的な人事異動・最適配置ができるよう人材の流動化を高めることが、グローバルモビリティの基本的な考え方です。
インターナルモビリティとグローバルモビリティは、一見すると対義語のようであるものの、実際は方向性が全く異なります。
インターナルモビリティは、あくまでも社員の希望に合わせた人事異動を実現する制度です。
対してグローバルモビリティは、企業がグローバル化を目指すにあたって、国際的な人事異動ができる体制を整えることを指します。
2.インターナルモビリティのメリット・デメリット
インターナルモビリティには、社員のモチベーション向上やスキル取得の促進につながるメリットがあります。一方で、企業にとっては新しい人事異動の方法となるためデメリットがある点にも注意しましょう。
インターナルモビリティのメリット・デメリットを紹介します。
2-1.インターナルモビリティのメリット
インターナルモビリティは社員が能力を発揮できる環境で働ける制度として、大企業を中心に導入されています。
インターナルモビリティのメリットは、主に下記の3点です。
- 社員のモチベーションアップにつながる
- 配属のミスマッチによる離職を防止できる
- 社員のキャリア形成ができる
インターナルモビリティを導入することで、社員は自分が希望する部署に異動する機会を得られます。自分が働く環境を自分で決められると、仕事に対してポジティブな向き合い方ができるようになり、モチベーションアップにつなげることが可能です。
また、通常の人事異動では、社員自身が希望しない部署への配属になる可能性があります。希望しない部署に配属された社員は不満がたまり、離職という結果になるケースも少なくありません。インターナルモビリティは社員の希望に合わせた人事異動を行うため、配属のミスマッチによる離職を防止できます。
インターナルモビリティの導入により、社員のキャリア形成を支援できる点もメリットです。社員が自分の活躍したい分野を意識して社内FA制度や社内公募制度を利用することで、幅広い知見やスキルを獲得できます。社員が希望する分野を企業側が把握しやすくなり、キャリア開発をより支援できる人材育成の体制も整えられるでしょう。
2-2.インターナルモビリティのデメリット
インターナルモビリティは社員・企業の双方にとってメリットがある反面、デメリットが生じるケースもあります。
導入を検討する企業は、インターナルモビリティには下記のデメリットがある点に留意しましょう。
- 人材に余裕が必要で中小企業に向かない
- 人間関係が悪化する恐れがある
- 人事部門の負担が大きくなる
インターナルモビリティでは人事異動を社員の希望に合わせるものの、社員が抜けた部署では当然ながら人員の不足が発生します。一度に多数の人員が抜けた部署では業務に支障が発生するため、内部人材に余裕がない中小企業には向きません。
インターナルモビリティを利用した社員は、部署内の人間関係が悪化する恐れがある点もデメリットです。直属の上司や同じ部署の同僚からは「今の部署に不満を抱えている人員」としてよく思われない可能性があるでしょう。異動が実現できなかった場合、人間関係が悪化した上司や同僚と働き続けることで、社員が働きにくさを感じるケースもあります。
また、インターナルモビリティによる人事異動では人事部門の負担が大きくなります。異動元部署と異動先部署の話し合いや異動に伴う欠員補充、人事評価制度の調査・見直しなど行う必要があり、人事業務の進行に支障が出る可能性もあるでしょう。
3.インターナルモビリティを導入するときの注意点
最後に、インターナルモビリティを導入するときの注意点を解説します。
- 募集するポジションを明確にする
- 応募できる人材の要件を定めておく
- 異動する社員・選外になった社員の双方をフォローする
インターナルモビリティで社内公募を行うときは、異動後のミスマッチが発生しないように募集するポジションを明確にしましょう。異動先のポジションにおける業務内容と役割、求められるスキル・経験の公開などをルール化すると、異動後のミスマッチやスキルギャップを防げます。
インターナルモビリティによる人事異動では、応募できる人材の要件を定めておくことが重要です。誰もが応募できる状況では、自己成長を希望する社員だけでなく、現在の部署から離れたいだけの社員が応募する可能性もあります。
勤続年数や保有資格、募集ポジションに必要な経験など、応募要件は適切な難易度で設定しましょう。
インターナルモビリティを実施した際は、異動する社員・選外になった社員の双方にフォローが必要です。
異動する社員には、異動後の業務内容や人間関係など、異動後につまずきやすいポイントについてフォローできる体制を整えます。異動先の上司に協力を仰ぐことも大切です。
選外になった社員には、現部署での人間関係についてのフォローや、キャリア相談などの対応をしましょう。社員の能力で評価されている点を伝え、再挑戦するにあたっての課題と解決方法を提示します。
他にも、「インターナルモビリティの制度を社員に分かりやすく説明する」や、「異動希望などの情報は秘密保持を徹底する」といった点も押さえましょう。
まとめ
インターナルモビリティは、社内FA制度・社内公募制度など、社員が自己の希望に基づいて組織内で人事異動を行う制度の総称です。導入すると社員のモチベーション向上やキャリア形成に貢献し、組織の活性化にもつながる一方で、人事部の負担増加や人間関係の悪化といったデメリットも存在します。
導入にあたっては募集するポジションを明確化し、応募できる人材の要件を定めておくのが重要です。また、異動する社員・選外になった社員の双方をフォローし、異動後に社内でトラブルになったり、モチベーションが下がったりしないような体制づくりが必要になります。