ハラスメントの正しい対処法|発生原因や職場で起きた際のポイントも
ハラスメントとは、他人の心身に苦痛を与える行為です。ハラスメントが企業内で起きると、雰囲気の悪化や生産性低下、法的責任、事件化すれば報道される可能性があります。
ハラスメントは複数種類ありますが、いずれもコミュニケーション不足、性別役割分担意識、組織風土や職場環境、マネジメント能力の不足が主な原因です。企業はハラスメントの対策を急務とし、ガイドライン作成や相談窓口設置、社内研修実施、保険加入などが求められます。
当記事では、ハラスメントの種類や発生する理由を解説した上で、企業向けにハラスメントの対処法と注意点を紹介します。
目次
1. そもそもハラスメントとは?
ハラスメントとは、他人に精神的苦痛や身体的苦痛を与える行為のことです。一般的に、性別や人種、宗教などの特徴による差別や、人格を侵害するような言動などが含まれます。
以下は、企業内でハラスメントが起きた場合に生じる可能性が高いデメリットです。
【企業側】
- 社内の雰囲気が悪化し、生産性が低下する
- 企業のイメージや評価が下がる
- 法的責任が生じる
- 事件に発展し大々的に報道される場合がある
【加害者側】
- 人間関係が悪化し、仕事のパフォーマンスが低下する
- 法的な責任を問われる
- 懲戒処分を受ける
- 社会的地位や職を失う
【被害者側】
- ストレスによる健康問題や精神疾患が生じる
- 自己評価が低下し、モチベーションが下がる
- 仕事や生活に支障をきたす
1-1. ハラスメントの種類
職場で頻繁に見られるハラスメントには主に次の3つです。
●パワハラ
上司から部下、先輩から後輩など相手に対して優位となる地位や立場を利用して、無理な仕事を押しつけたり、一方的な評価や批判を行ったりすること。
●セクハラ
性的な発言や行動で相手を不快にさせること。
●マタハラ/パタハラ
妊娠・出産・育児を理由に差別的な言動や不利益な扱いをすること。
上記以外にも、ケアハラ(介護を理由にした嫌がらせ)やアルハラ(飲み会への参加や飲酒の強要)など、さまざまな種類のハラスメントが存在します。
2. 職場でハラスメントが発生する原因
職場でハラスメントが発生する原因は当事者同士の関係性によっても異なりますが、一般的には以下の4つが代表的です。
●コミュニケーション不足
コミュニケーションが不足すると、誤解や不満が生じやすくなります。互いの価値基準を理解していないと、相手の不快感に気づけないまま加害者となりかねません。
●性別役割分担意識
「男性は外で仕事・女性は家事」のように、性別によって役割を分ける意識が強いと、性に関するハラスメントが生じることがあります。ジェンダーバイアスは特に高齢の男性に多く見られる考え方なので、注意が必要です。
●組織風土や職場環境
ハラスメントが許容されていると感じられる風土や、過度のストレスがある職場環境は、ハラスメントの連鎖が起こりやすくなります。
●マネジメント能力の不足
上司やリーダーのマネジメント能力が不足し、適切に評価されなかったり業務量が偏ったりすると、不満のはけ口としてハラスメントが起きやすい環境を生み出します。
3. 【企業向け】ハラスメントの対処法
ハラスメントの発生は企業にとって大きな悪影響を及ぼします。従業員のモラル・生産性の低下や人材の流出、企業価値の低下といった問題が生じるため、早急な対策が必須です。
また、法律により、事業主にはハラスメントの防止と対策を講じる責任が義務づけられています。「労働施策総合推進法(通称パワハラ防止法)」は2022年4月からすべての企業が適用対象となり、下記の対策が求められています。
- 事業主の方針を明確化し、従業員へ周知・啓発する
- 相談体制の整備と適切な対応
- ハラスメント発生時の迅速かつ正確な事実確認と適切な対処
- プライバシーの保護と不利益取扱いの禁止
- ハラスメント原因の解消に向けた職場環境の整備
早急に対策を講じ、よりよい職場環境を実現しましょう。
出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)」
3-1. ハラスメントに関するガイドラインを作成・共有する
ハラスメント対策の第一歩は、具体的なガイドラインの作成と共有です。企業としてのハラスメントに対する方針を明文化し、従業員へ周知することが重要です。このガイドラインには、具体的なハラスメント行為の例や、ハラスメントを禁止する企業の姿勢を明確に記載します。
ガイドラインはいつでも確認できる状態を保つことが、従業員の人権意識の向上に必要です。またトラブルが発生した場合にも、対応の基準として役立ちます。他社のガイドラインを参考にしても問題ありませんが、自社の実情に合わせて調整することが大切です。
3-2. 社内に相談窓口を設置する
社内へのハラスメント相談窓口設置は、問題の早期発見と被害者のサポートに重要であると同時に、事業者の義務です。
相談窓口には内部と外部の2つのタイプがあり、内部相談窓口には管理職や人事部門、コンプライアンス部門などが考えられます。外部相談窓口は、弁護士事務所や専門のコンサルティング会社などが代表的です。
運用する上で注意が必要なのは、相談者のプライバシーを保護し、相談内容を漏らさないことです。相談者や関係者が不利益を被ることのないよう配慮し、その旨を従業員に周知しなければなりません。
3-3. 社内研修を実施する
社内研修の実施は、ハラスメント防止に大きく寄与します。研修を通じて、ハラスメントの定義や決して許容しない姿勢を明確に伝えることが必要です。特に、管理職や人事担当者には、ハラスメントに対する認識を深める研修を実施するとよいでしょう。
研修では、被害者や告発者のプライバシー保護や、相談や事実確認に協力した者への不利益な取り扱いの禁止なども説明します。また「逆パワハラ」もパワハラの一部であり、相談窓口ではその相談も受けつける旨を周知する必要があります。定期的な研修は、社員全体のハラスメントに対する理解を高め、問題の早期発見・解決に有効です。
3-4. ハラスメント関連の訴訟を起こされた際の備えとして保険に入る
ハラスメント対策を万全に行っても、ハラスメントが発生しない保証はありません。万一ハラスメントに関連した訴訟が発生した際の備えとして、保険に加入しておくとよいでしょう。
裁判で賠償責任が問われた場合、事案によっては数千万円単位の支払いが発生することがあります。雇用慣行賠償責任保険は、「ハラスメント行為による損害賠償」に備える保険です。月の掛け金は数千円からと手頃で、保険金が下りれば裁判費用や賠償金の支払いに使えます。ただし、従業員個人が賠償責任を問われた場合は補償の対象外です。
4. もし職場でハラスメントが起きた場合は?
職場でハラスメントが発生した場合、窓口での対応には慎重さが求められます。まず、相談者の話を真剣に傾聴し、事実確認を早急かつ正確に行うことが重要です。事実を確認する際には個人的な感情や価値観を挟まず、客観的な意見や明確な証拠も加味し、常に中立的な立場で判断しなければなりません。
他部署とも連携しつつ、相談者の意思を十分に尊重し、状況によっては迅速にサポートを行いましょう。ハラスメントの種類や相談者の希望によっては、全般的な周知や注意喚起が解決の糸口となるケースも珍しくありません。一方、事実確認の途中で行為者を犯人扱いしないことも大切です。
4-1. 被害者へのサポートとプライバシーの配慮に努める
ハラスメント対策として重要なのは、被害者へのサポートとそのプライバシーの配慮です。ヒアリングの過程では、秘密を守ることや不当な処分を受けないことを保証した上で、被害者がどのような解決を望むのか十分に確認しましょう。
事実調査期間中は被害者の心理的安全を確保するためにも、被害者と行為者が顔を合わせずに済むよう、配置転換などの措置を講じることも大切です。行為者や第三者への問い合わせについても被害者の許可を得なければなりません。
4-2. ハラスメント内容によっては社外のサポートを提供する
企業の状況やハラスメントの種類によっては、社内の相談窓口だけでは十分な対応が難しいケースもあります。そのような場合は、社外の専門機関への相談を提案することも大切です。
社外の相談窓口の利点は、社内の関係者とは独立した立場にあり、従業員が安心して相談できる環境が整っていることです。勤務時間外や休日でも相談が可能なため、アクセスしやすいという利点もあります。
外部の相談窓口は、総合労働相談コーナーや法テラスなどが代表的です。また、ハラスメント専門の相談窓口を提供する企業もあります。
まとめ
ハラスメントは他人に精神的苦痛や身体的苦痛を与える行為であり、企業内で発生すると多くのデメリットが生じます。
主なハラスメントの種類はパワハラ、セクハラ、マタハラ/パタハラなどがあります。ハラスメントの主な原因はコミュニケーション不足、性別役割分担意識、組織風土やマネジメント能力の不足です。
職場でハラスメントが起きた際、企業は早急な対処が求められます。ガイドラインの作成・共有や相談窓口の設置、社内研修の実施、保険加入を行いましょう。職場でハラスメントが発生した場合は慎重に対応し、被害者のサポートとプライバシーの配慮に努めることが大切です。