障がい者雇用とは?企業のメリットや雇用の手順を解説
障がい者雇用への取り組みは、社会的責任の一環としてますます重要性を増しています。障がい者の就労機会を提供することは、多様性と包括性を尊重する企業文化の構築につながります。
障がいのある人々は、能力や才能を十分に発揮する機会を与えられれば、優れた成果を生み出すことができます。障がい者雇用は、企業にとっても双方向の利益をもたらすでしょう。しかし、障がい者雇用への取り組みには新たな課題があります。
当記事では、障がい者雇用の定義や一般雇用との違い、障がい者雇用促進法について解説します。さらに、企業が障がい者雇用をするメリットと課題、障がい者雇用の流れについても紹介するので、より包括的な職場環境を構築するためのヒントを得たい方はぜひ参考にしてください。
目次
1.障がい者雇用とは
障がい者雇用とは、一定以上の規模の企業・法人が、障がいがある方を「障がい者雇用枠」で雇用することを指します。
日本では企業規模に応じて、障がいのある方を所定の割合で雇用することが法律で義務付けられています。たとえば、従業員を43.5人以上雇用している民間企業の場合、障がい者雇用枠で1人以上を採用する必要があります。
障がい者雇用枠の対象となる方は、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳といった障がい者手帳の所有者です。障がい者雇用に関する助成金については、統合失調症やてんかん、そううつ病などの障がい者手帳を所有しない方も対象者となることを押さえておきましょう。
1-1.障がい者雇用と一般雇用の違い
障がいがあることがオープンになる「障がい者雇用」に対し、障がい者手帳の有無にかかわらず一般求職者と同じ条件で採用することが「一般雇用」です。障がい者雇用も一般雇用も、採用試験を経て雇用が決まるという点は同じですが、雇用する上での配慮のしかたや雇用形態など異なる点もあります。
たとえば、障がい者雇用の場合は、選考・採用の段階で求職者が自身の障がい特性をオープンにしやすいという特徴があります。企業側は求職者の障がい特性を事前に把握・理解できるため、特性に配慮した働き方を提示することが可能です。一方、一般雇用では状況に応じた配慮が不可能ではないものの、障がい者雇用と同様の対応は難しいでしょう。
また、障がい者雇用では仕事の内容や働き方に配慮を必要とするため、契約社員などの有期雇用としてスタートすることも少なくありません。ただし、数年後に正規雇用に切り替える企業も増えています。
2.障がい者雇用促進法とは
障がい者雇用促進法とは、障がいのある方が自身の能力や適性に応じて就職・就労し、自立した生活を安定して送ることを目的とした法律です。
障がい者雇用促進法の歴史は、第二次世界大戦の終戦後にさかのぼります。第二次世界大戦後、戦争での負傷による身体障がい者の増加が社会的な課題になりました。このような方々の雇用を促進するため、1960年に「身体障がい者雇用促進法」が創設されます。
その後、1976年の身体障がい者雇用促進法改正では法定雇用率の達成が義務化され、雇用給付金制度も創設されました。1987年には「障がい者雇用促進法」と改称され、1998年には知的障がい者が、2018年には発達障がいを含む精神障がい者も障がい者雇用枠の対象となっています。
現在も続く「障がい者雇用促進法」の背景には、障がいの有無にかかわらず、個人が相互に尊重し合いながら共生する社会を目指す「ノーマライゼーション」の理念があります。このノーマライゼーションの考え方に基づいて、企業側が果たすべき義務や配慮したいポイントは下記の通りです。
◆障がい者雇用を行う際の企業の義務・注意するポイント
- 障がいのある方の能力・適性を十分に評価し、適切な雇用の場を提供する
- 一人ひとりの特性や状況に応じた合理的配慮を提供する
- 障がいがあることを理由に不採用としたり、低い賃金を設定したりといった差別をしない
- 適正に雇用管理をする
- 職業能力の開発・向上に関する措置を実施する
3.企業が障がい者雇用をするメリット・デメリット
企業が障がい者を雇用することには、税制優遇措置や助成金などの支援制度・助成制度を活用できるなどのメリットがあります。一方で、マネジメント部門によるサポート体制によっては、現場に負担がかかる可能性もあるなどのデメリットもあるため、導入する際には注意が必要です。
ここでは、企業が障がい者を雇用することのメリットとデメリットについて解説します。デメリットと捉えられやすい課題を解決する方法も併せて確認し、障がい者雇用を前向きに行える企業体制を築きましょう。
3-1.メリット
企業が障がい者雇用を行うメリットの1つとして、企業のイメージアップにつながることが挙げられます。社会的責任を果たし、共生社会の実現に向けて積極的に取り組んでいる優良企業と認識されることで、企業価値の向上や売上アップも期待できるでしょう。
また、障がいのある方も一緒に活躍できる場をつくることで、多様な人材が自身の能力を十分に発揮できることも期待できます。ダイバーシティ(多様性)の実現により、人材不足の解消も図れるでしょう。
業務効率化や業務の最適化を図るきっかけになることも、メリットの1つです。障がい者雇用をするためには、障がいのある方が自身の能力を発揮できる業務を企業側が確保する必要があります。業務全体を見直すことも多いため、企業活動全体の業務効率化を図る良い機会になるでしょう。
3-2.デメリット
障がい者雇用をする場合、任せられる業務が限られるケースがあることに注意が必要です。障がいの特性によっては、フルタイムでの勤務が難しかったり、特定の業務に取り組むことが困難であったりするケースも少なくありません。
障がい者を雇用をする際は、業務全体を見直した上で、個人の能力・適性に合った業務を見つけることが大切です。場合によっては、親会社と異なる労働条件を設定できる「特例子会社制度」を活用するなど、合理的配慮を行いやすい労働環境・職場環境を整えましょう。
また、障がい者雇用をすることに対し、社内の理解がなかなか得られない場合もあります。障がい者雇用に関する説明や障がいに関する知識・情報が乏しい状況では、管理者や従業員など現場の理解が得られず、業務をスムーズに進めることが難しくなってしまいます。
障がい者雇用に対する社内の理解を深めるためには、社会的責任の説明だけではなく、雇用する理由や雇用方針・採用計画を従業員に丁寧に説明することが大切です。また、障がい者雇用枠で採用された本人と話し合った上で、障がいの特性や本人の能力、配慮が必要なポイントを現場と共有することも重要になります。
さらに、人事担当者などのマネジメント部門の従業員が、障がい者雇用で採用された方と現場をしっかりサポートできる体制を構築することもポイントです。コミュニケーションの取り方やマネジメントのしかたなど、相互理解を深める機会を定期的に設けましょう。
4.障がい者雇用の基本的な流れ
企業が障がい者を雇用するには注意すべきポイントもありますが、企業イメージの向上や多様な人材の採用、業務効率化などメリットも多数存在します。下記の流れを参考に、障がい者雇用に取り組みましょう。
1 | 障がい者雇用に関する知識・理解を深める |
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障がい者雇用に関する法律や制度に関する知識を身につけ、障がい者や障がいに関する理解を深めましょう。障がい者雇用に関する不安・課題がある場合は、支援機関に相談することも1つの方法です。 |
2 | 業務内容を検討する |
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障がいがある方が、本人の能力や適性を生かして取り組める業務内容を検討してみましょう。 |
3 | 受け入れる準備をする |
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雇用形態や労働時間、賃金、受入部署などを決め、採用計画・雇用計画を立てましょう。社内理解を深め、受入部署の従業員に対する説明や指導、研修をします。 |
4 | 求人票を出し採用活動を行う |
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求人サイトやハローワークなどの求人媒体に求人票を出します。就労移行支援事業所や特別支援学校など、障がい者の就労支援を行う機関と提携して募集するのもよいでしょう。採用面接の際には、応募者の障がいの特性や通院頻度、介助者の必要性や支援機関の利用など、一緒に働く上で重要となる配慮事項を確認します。 |
5 | 雇用の継続に向けて企業全体で取り組む |
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本人の能力や適性に応じて、担当する業務や配属先を調整します。採用後は定期的な面談や課題の確認・改善といった施策を組織全体で行い、障がいのある方が安心して職場に定着できる職場づくりを心がけましょう。 |
まとめ
障がい者雇用は、企業が一定の規模で障がいのある人を雇用することを指します。日本では法律で規定されており、障がい者手帳の所有者が対象です。
障がい者雇用促進法は、障がいのある人が自立した生活を送るための法律であり、企業は障がい者の能力を評価し、合理的配慮を提供する義務があります。
障がい者雇用のメリットには、企業イメージの向上、多様な人材の活用、業務効率化が挙げられますが、マネジメント部門のサポートが必要といったデメリットもあります。
障がい者雇用の基本的な流れは、「知識・理解の深化→業務内容の検討→採用プロセスの実施→雇用継続に向けた支援」です。助成金などの制度を活用し、障がいのある方が安心して働ける環境づくりに取り組みましょう。