裁量労働制とは?企業・従業員ごとのメリット・デメリットも紹介
従業員の働き方を柔軟化させる制度の1つが、「裁量労働制」です。ワークライフバランスの実現が重視されるようになっている昨今、裁量労働制に注目が集まっています。しかし、制度内容の詳細まで理解していない人は多いのではないでしょうか。
当記事では、裁量労働制の概要やメリット・デメリットを紹介します。実際に導入する際の流れも解説するため、従業員が働きやすいように職場環境を整備したいと考えている企業の人事・労務担当者は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.裁量労働制とは?2つの種類の詳細も
裁量労働制とは、労働時間や始業・終業時間を従業員が自ら決める制度です。実際に働いた時間にかかわらず、1日の労働時間は契約時に結ぶ「みなし労働時間」が根拠となります。たとえば、みなし労働時間が7時間であれば、3時間働いても9時間働いても、1日の労働時間は7時間とみなされます。
裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があります。各制度の概要は以下の通りです。
【専門業務型裁量労働制(労働基準法第38条の3)】
専門業務型裁量労働制は、業務の性質を踏まえて、労働時間の配分を労働者にゆだねることが望ましい場合に適用されます。適用業務は厚生労働省によって定められており、下記の19種類です。
- 新商品や新技術の研究開発業務または人文科学や自然科学に関する研究業務
- 情報処理システムの分析や設計の業務
- 新聞や出版、放送などにおける取材や編集の業務
- 衣服や工業製品などにおける新たなデザインの考案業務
- 放送番組や映画など制作関連のプロデューサーやディレクター業務
- コピーライターの業務
- システムコンサルタントの業務
- インテリアコーディネーターの業務
- ゲーム用ソフトウェア創作の業務
- 証券アナリストの業務
- 金融工学などの知識を用いる金融商品の開発業務
- 大学における教授の研究業務
- 公認会計士の業務
- 弁護士の業務
- 建築士の業務
- 不動産鑑定士の業務
- 弁理士の業務
- 税理士の業務
- 中小企業診断士の業務
【企画業務型裁量労働制(労働基準法第38条の4)】
企画業務型裁量労働制は、事業運営上大きな影響を与える事業場において、企画・立案・調査・分析を担当する労働者を適用対象とする制度です。企画業務型裁量労働制の適用事業場となるための要件は、以下の通りです。
- 本社または本店
- 本社や本店の指示を受けずに、事業運営に大きな影響を及ぼす計画の決定を行っている支社や支店
なお、企画業務型裁量労働制は、専門業務型裁量労働制のように、業務範囲が明確に決まっているわけではありません。
1-1.他制度との違い
裁量労働制と混同されやすい制度に「高度プロフェッショナル制度」と「フレックスタイム制度」があります。それぞれの制度概要は、以下の通りです。
【高度プロフェッショナル制度】
高度プロフェッショナル制度は、高い専門知識・スキルを有した労働者に対し、特定の要件を満たす場合に、働き方を自由に選べることを認める制度です。労働基準法における労働時間・休憩・休日・割増賃金の規定は適用対象外になります。
対象となる労働者・業務の具体的内容は下記の通りです。
<対象労働者>
下記のどちらも満たす必要があります。
- 労使間において業務が明確に定められている労働者
- 見込み年収額が1,075万円以上の労働者
出典:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」
<対象業務>
下記のいずれかを満たす必要があります。
- 金融工学などの知識を用いる金融商品の開発業務
- 資産運用の業務または有価証券の売買や取引の業務
- アナリストの業務
- コンサルタントの業務
- 新商品や新技術の研究開発業務
出典:厚生労働省「高度プロフェッショナル制度 わかりやすい解説」
【フレックスタイム制度】
フレックスタイム制度は、週や日単位で決められた所定労働時間を満たせば、始業・終業時間を自由に決めてよい制度です。ただし、企業が定めるコアタイムは勤務している必要があります。
【例】コアタイム13:00~15:00、1日の所定労働時間8時間(うち1時間休憩)の場合 |
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始業時間:6:00~13:00のうち好きな時間 終業時間:始業から9時間後(休憩時間含む) |
裁量労働制とフレックスタイム制は、自分で労働時間を調整できる点で似ていますが、自由度には違いがあると言えます。
2.【従業員・企業別】裁量労働制のメリット・デメリット
裁量労働制は、新しい働き方として注目を集めているものの、従業員・企業のそれぞれにとって、さまざまなメリット・デメリットがあります。安易な導入は働きにくい職場環境にしてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
ここからは、裁量労働制のメリット・デメリットを紹介します。
2-1.【従業員のメリット】成果を高められる可能性がある
裁量労働制では、従業員の努力や取り組み次第で成果を高められる可能性があります。裁量労働制のもとでは、労働時間ではなく「成果」が評価されることから、最短で成果を上げるために業務効率化や生産性向上を図ります。
成果が評価対象となれば、従業員のモチベーションアップも期待できます。さらなる成果を上げようと、多くの従業員が高い意識で業務に取り組むようになるでしょう。
2-2.【企業のメリット】人件費が予測しやすくなる
企業のメリットとして、人件費が予測しやすくなる点が挙げられます。裁量労働制は基本的に残業がなく、予想外の人件費が発生するケースが少なくなるためです。予算運用や給与計算が効率化すれば、他のコア業務に専念できるようになり、人事部全体の生産性向上にもつながります。
ただし、「人件費を予測しやすくすること」だけを目的に裁量労働制を導入しないよう注意してください。単に従業員の業務量が増えるだけになる可能性があるため、従業員へのメリットも踏まえながらの検討が重要です。
2-3.【従業員のデメリット】長時間労働につながりやすい
裁量労働制の導入が、長時間労働につながるケースもあります。裁量労働制では、実際の労働時間にかかわらず、みなし残業時間分を働いたとされるためです。特に個人の仕事量が多かった場合、裁量労働制を導入すると「長時間労働しているのに残業代が出ない」など、従業員にとって不利な状況になりかねません。
企業側の一方的な都合ではなく、組織の実態を整理した上で導入を検討してください。
2-4.【企業のデメリット】導入までの手続きに時間がかかる
裁量労働制の導入にあたってはさまざまな手続きが発生するため、手間がかかる問題点もあります。一例として、専門業務型裁量労働制を導入する際は、労使協定の締結や労働基準監督署への提出が必要です。
導入手続きによってほかの業務が圧迫されないよう、人事部門や組織全体で協力しながら導入を進めましょう。
3.裁量労働制を導入するまでの流れ
裁量労働制を導入するまでの流れは、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制で異なります。導入方法の詳細は、それぞれ以下の通りです。
【専門業務型裁量労働制を導入するまでの流れ】
- 労働組合または労働者の過半数を代表する労働者と労使協定を結ぶ
- 労使協定を所轄の労働基準監督署に提出する
- 従業員に周知して制度を実施する
労使協定には対象業務やみなし労働時間など、裁量労働制の運用に必要な項目を具体的に定める必要があります。労使協定は一度結んだら容易に変更できないため、内容を吟味しながら検討してください。
【企画業務型裁量労働制を導入するまでの流れ】
- 労使委員会を設置し、必要事項について5分の4以上の賛成を得て決議する
- 決議内容を所轄の労働基準監督署に届け出る
- 従業員に周知して制度を実施する
大まかな流れは専門業務型裁量労働制と似ていますが、企画業務型裁量労働制は労使委員会の決議を得る必要がある点が大きな違いです。
4.裁量労働制でも残業代を支払うケースはある?
裁量労働制では基本的に残業代が発生しないものの、支払いが必要になるケースもあります。具体的なケースは、以下の2つです。
・みなし労働時間が1日8時間を超える場合
労働基準法において、法定労働時間は1日8時間・週40時間と定められています。そのため、そもそもみなし労働時間が8時間を超えている場合は、25%分の割増賃金を加えた残業代を支払わなければなりません。
・法定休日や深夜帯(10:00~5:00)に労働した場合
裁量労働制であっても休日や深夜労働の規定は適用されるため、法定休日や深夜帯に労働した場合には残業代が発生します。割増賃金は、法定休日に働いた場合は通常賃金の35%、深夜帯に働いた場合は通常賃金の30%です。
まとめ
裁量労働制とは、1日の労働時間や始業・終業時間を自分で決めてよいとする制度であり、新しい働き方として注目を集めています。裁量労働制には「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2つがあり、それぞれ制度内容や導入までの流れが異なります。自社に適した制度はどちらかを確認してください。
裁量労働制には、従業員の生産性向上や予算管理の効率化のようなメリットがある一方、長時間労働につながる可能性があるなどのデメリットもあります。効果的に運用するためには、デメリットをカバーすることが重要です。
ぜひ、裁量労働制を効果的に導入・運用して、従業員にとって理想的な職場を作ってください。