コンプライアンス違反の企業事例|防ぐための対策も紹介
企業経営において「コンプライアンス違反」は、法的処分だけでなく社会的信頼の失墜や経済的損失を招く重大なリスクです。ハラスメントや長時間労働、個人情報の漏洩、品質不正、不適切なSNS投稿、反社会的勢力との関係など、実際の企業事例からもその深刻さが明らかになっています。小さな不注意や管理不足が大きな炎上や社会問題へと発展することもあり、予防や早期対応の重要性はますます高まっています。
当記事では、代表的なコンプライアンス違反の事例と併せて、防止のために企業が取り組むべき具体策を分かりやすく紹介します。
目次
1. コンプライアンス違反とは?
コンプライアンス違反とは、法律や社会のルール、企業倫理などに反する行為を指します。コンプライアンスは「法令遵守」と訳されますが、単に法律を守るだけでなく、企業の行動規範や社会通念、時代に応じた価値観への対応も含まれます。
たとえば、ハラスメント防止や環境配慮、LGBTQ+への理解なども現代的なコンプライアンスの一部です。違反が発覚すれば、法的処罰だけでなく、企業や個人が社会的信頼を大きく失うリスクもあります。そのため、企業は従業員に対する研修やガイドライン整備を通じて、コンプライアンスを徹底しなければなりません。
2. コンプライアンス違反の企業事例
コンプライアンス違反は一度発生すると、企業に法的処分や経済的損失だけでなく、長期的な信用失墜をもたらします。小さな不正や不注意が大きな問題へと発展するケースも多く、予防や早期対応が重要です。ここでは、企業で実際に見られる代表的な違反事例を紹介します。
2-1. ハラスメント
コンプライアンス違反の中でも、ハラスメントは深刻な問題です。セクハラやパワハラは被害者の尊厳を傷つけるだけでなく、組織の信頼性や社会的評価を大きく損ないます。
近年大きく報じられたのが、株式会社SMILE-UP.における故ジャニー喜多川氏による性被害問題です。会社は公式に謝罪し、補償や被害救済に取り組む姿勢を示していますが、被害の長期性や影響の大きさは社会に強い衝撃を与えました。
また、住友林業の熊本支店では新入社員が過酷な労働と上司の叱責により精神疾患を発症し、自死に至ったケースもあります。裁判でパワハラと過労の因果関係が認められ、企業責任が厳しく問われました。こうした事例は、企業が職場環境を整備し、人権尊重や適切な労務管理を徹底することがいかに重要かを改めて示しています。
2-2. 違法な労務管理・長時間労働
労務管理におけるコンプライアンス違反は、長時間労働や有給休暇の妨害として表れ、過労死など深刻な問題につながります。
代表例が電通の違法残業事件で、新入社員・高橋まつりさんの過労自死を受け、東京簡裁は法人に罰金50万円を科しました。判決は「違法な時間外労働で尊い命が失われた」と厳しく指摘し、社内の長時間労働の常態化を問題視しました。
出典:日本経済新聞「電通に罰金50万円 違法残業事件で東京簡裁判決」
日能研関西の事件では、塾講師が有給休暇を申請した際に上司が評価低下を示唆し、申請を取り下げさせた行為が違法と認定されました。いずれも労働者の権利を軽視した企業体質が問われた事例であり、法令遵守に加えて健全な労務管理が不可欠であることを示しています。
2-3. 個人情報の漏洩・不正利用
コンプライアンス違反における個人情報の漏洩・不正利用とは、顧客や従業員の住所・氏名・電話番号・金融情報などを不正に外部へ流出させたり、承諾なく共有・使用する行為を指します。
近年の代表例として、NTT西日本子会社・NTTマーケティングアクトProCXでの大規模流出事件があります。元派遣社員が約10年間にわたり不正にデータを持ち出し、名簿業者に流出。影響は900万件規模に及び、自治体や企業の顧客情報も含まれていました。警察が不正競争防止法違反容疑で捜査を進めています。
出典:日本経済新聞「NTT西日本子会社元社員、個人情報900万件流出 名簿業者にも」
さらに三菱UFJ銀行では、融資先企業の内部情報をグループ内の証券会社と共有していた疑いが浮上しました。これは顧客の同意を得ない情報提供にあたり、金融商品取引法やファイアウォール規制違反の可能性があります。こうした事例は、企業の信用失墜を招く典型例と言えます。
2-4. 品質不正・欠陥製品の出荷
コンプライアンス違反における品質不正・欠陥製品の出荷とは、製品の安全性や性能に関する基準を満たしていないにもかかわらず出荷したり、試験データを改ざんして認証を不正に取得する行為を指します。これらは利用者の安全を脅かすだけでなく、企業の社会的信頼を失墜させる重大な問題です。
近年の例として、ダイハツ工業では走行時の振動を吸収するバネが腐食し折れる不具合が判明し、6車種・19万台余りをリコールしました。また、本田技研工業(ホンダ)では、騒音試験やエンジン出力試験において条件不備や虚偽記載が発覚し、過去22車種・計325万台に影響が及びました。いずれも「工数削減」などの背景があったとされますが、遵法意識の欠如が問題視され、再発防止策の強化が進められています。
2-5. 不適切なSNS投稿・炎上行為
不適切なSNS投稿・炎上行為とは、企業や従業員がSNS上で社会通念やモラルに反する発信を行い、信頼を損ねる事例を指します。たとえ法令違反でなくても、軽率な投稿が企業ブランドの信用失墜や炎上騒動につながるため、重大なリスクを抱えています。
実例として、タカラトミー公式Twitterでは、流行していたハッシュタグと自社キャラクターを関連付けて告知を行いました。しかし、その表現が不適切だとして多くの批判を受け、投稿削除とアカウントの運用停止に追い込まれました。
出典:タカラトミー「タカラトミー公式 Twitter(@takaratomytoys)の運用に関するお詫びとご報告」
また、すかいらーくホールディングスが運営する「しゃぶ葉」では、アルバイト従業員が営業時間外に廃棄予定のホイップクリームを用いた不適切動画をSNSに投稿し炎上。同社は謝罪に追われる事態となりました。いずれも企業のモラル意識やガイドライン管理の不足が原因とされ、再発防止のための教育徹底が求められています。
2-6. 反社会的勢力との関係
反社会的勢力との関与は、企業の信用を大きく揺るがす重大なコンプライアンス違反です。暴力団排除条例のもと、取引や金銭供与は厳しく禁じられており、発覚すれば行政処分や社会的非難に直結します。
三栄建築設計では、創業者の小池信三元社長が暴力団組員と20年以上関係を持ち、2021年に工事代金名目で小切手を渡していたことが第三者委員会の調査で判明しました。東京都公安委員会から勧告を受け、企業体制の健全性が問われる事態となりました。その後、オープンハウスグループがTOBを通じて三栄建築設計の子会社化を進めるなど再建の動きが進められています。本件は、反社会的勢力との関係が企業存続に深刻な影響を与えることを示す事例と言えます。
3. コンプライアンス違反を防ぐための対策
コンプライアンス違反を防ぐには、経営陣から従業員まで一丸となって体制を整える必要があります。具体的な対策は以下の通りです。
- 慎重なチェック体制の整備
- 経営陣と現場の連携強化
- コンプライアンス研修の実施
- 自社リスクの洗い出し
- 弁護士への相談と法令確認
複数の担当者によるダブルチェック・トリプルチェックを導入すれば、違反が発生しにくくなり、仮に不備があっても早期発見・是正が可能となります。
経営層が現場を正しく理解し、適切に監督することが重要です。そのため、定期的な会議やホットラインを設け、情報を迅速に共有できる仕組みを整える必要があります。
従業員の意識向上には継続的な研修が効果的です。情報セキュリティ、ハラスメント、労務管理、知的財産などをテーマに、専門家を招いた定期的な教育を行いましょう。
過去の事例やヒヤリハットを検証し、自社特有のリスクを把握しましょう。業界特有の法規制もあるため、経験豊富な弁護士によるチェックを受けることが推奨されます。
企業形態や業種により遵守すべき法律は異なります。経営陣が主体的に顧問弁護士へ相談し、最低限守るべき法令を明確にすることが大切です。
まとめ
コンプライアンス違反は、法律違反だけでなく、ハラスメントや長時間労働、個人情報漏洩、品質不正、不適切なSNS投稿、反社会的勢力との関与など、企業の信頼を根底から揺るがす重大なリスクです。一度の違反が法的処分や経済的損失にとどまらず、長期的な信用失墜につながることも少なくありません。
違反を防ぐためには、チェック体制の強化、経営陣と現場の連携、継続的な研修、リスクの洗い出し、専門家による法令確認といった多面的な対策が欠かせません。企業は従業員一人ひとりの意識向上を図り、組織全体でコンプライアンスを徹底することで、持続可能で信頼される経営を実現できます。