【企業向け】無期雇用とは?有期雇用との違い・無期転換に関するQ&A
人材の採用・雇用にあたって、有期雇用で労働契約を結ぶ方法をとっている場合、労働者から無期転換の申込みを受けることがあります。無期転換申込権の発生により、無期転換を求められた場合、企業はどのように対応すればよいのでしょうか。
当記事ではそもそも無期雇用とは何か、有期雇用との違いや、無期雇用派遣と正社員の違いは何であるのかについて、詳しく解説します。さらに、無期転換ルールの概要や企業が無期雇用派遣を受け入れるメリット・デメリット、無期転換の申込みでよくある質問と回答をご紹介します。
目次
1.無期雇用とは?
無期雇用とは「期間に定めを設けない労働契約」のことを指します。原則として期間満了による契約終了や契約更新がなく、就業規則などに規定された定年まで働き続けることができます。無期雇用とは対照的な雇用形態として「有期雇用」があります。
以前は、無期雇用と言えば正社員(正規雇用)のことを指す言葉でした。しかし2012年の労働契約法の改正により、派遣社員や契約社員、パート・アルバイトなども無期雇用で働くケースが増えてきています。
ここでは、無期雇用と有期雇用の違い、無期雇用派遣社員と正社員の違いを見ていきましょう。
1-1.無期雇用と有期雇用の違い
無期雇用と有期雇用の違いは「契約期間に定めがあるかどうか」です。無期雇用労働者の場合、契約期間に定めがなく、就業規則などに規定された定年まで働き続けるのが基本です。
一方、有期雇用労働者は契約期間に3か月や1年といった一定の定めがあり、期間満了後は契約を終了または更新します。特に派遣社員や契約社員、パート・アルバイトなどの非正規労働者は、有期雇用契約を結ぶケースが多いです。
1-2.無期雇用派遣と正社員の違い
無期雇用派遣と正社員の違いは「雇用元」と「労働条件」です。それぞれの違いを下表にまとめました。
無期雇用派遣 | 正社員 | |
---|---|---|
雇用元 | 人材派遣会社 | 勤務先企業 |
労働条件 | 派遣元(人材派遣会社)の規定に則る | 勤務先企業の規定に則る |
無期雇用派遣の場合、雇用元は人材派遣会社で、給与やボーナス、複利厚生などの雇用条件・待遇は、雇用主である人材派遣会社の規定に従うのが基本です。派遣先企業での昇進・昇格には関与できない一方、派遣先企業が業績不振に陥っても影響を受けにくいといったメリットもあります。
一方で、正社員は勤務先の企業に直接雇用されるのが基本です。労働条件も、勤務先企業の規定に従います。
2.無期転換ルールとは?
無期転換ルールとは、条件を満たした有期労働契約の労働者が申込みを行うことで、無期労働契約に転換されるルールです。
無期契約に転換することで、同じ職場で長く働いている有期労働契約の労働者が、安定して働き続けることにつながります。申込みがあった場合、企業は原則として無期労働契約への転換を断れません。
なお、派遣スタッフには法律で定められた「3年ルール」という期間制限があり、同じ事業所の同じ部署で3年を超えて働くことはできません。しかし、 「3年ルール」と「無期転換ルール」は別物です。派遣元との通算契約期間が5年を超えれば、労働者は派遣元に対して無期労働契約の申込みができます。
2-1.無期転換申込権の発生・行使の要件
無期転換申込権の発生・行使の要件を、3つのケースに分けて解説します。
・有期労働契約が5年を超えて更新された場合
2013年4月1日以降に開始した有期労働契約が5年を超えて更新された場合、労働者に無期労働への転換申込権が発生します。
具体的には、有期労働契約が1年更新の場合は5回目の更新以降、3年更新の場合は1回目の更新以降に、労働者は権利を行使できます。
・有期契約労働者から無期労働契約へ申込みをする場合
2013年4月1日以降に開始した有期労働契約の契約期間が通算5年を超える場合、有期契約労働者から企業に無期労働契約の申込みをする権利が発生します。
申込期間は、条件を満たす契約期間の初日から末日までです。期間内に申込みをせず有期労働契約を更新した場合は、新たな契約期間の初日から末日までの間、無期労働契約の申込権を行使できます。
申込みは口頭でも法律上有効ですが、申込みをしたかどうかのトラブルを防ぐためにも、書類による申込みの事実を確認することが大切です。
・無期労働契約に転換する場合
労働者が申込みを行った場合、企業が承認したものとして無期労働契約が成立します。企業が転換を断ることはできません。なお、無期労働契約が開始するのは、申込時の有期労働契約期間が満了した日の翌日以降です。
3.企業における無期雇用派遣のメリット・デメリット
無期雇用派遣を受け入れるメリットは、以下の2点です。
<メリット>
・長期間働いてもらえる
無期雇用派遣の場合、派遣期間に制限がないため同じ人に長く働いてもらえます。人員交代の回数が減ることで、責任ある業務を任せやすくなる上、後任の採用にかかる手間やコストも削減可能です。
・優秀な人材が派遣されやすい
無期雇用派遣では、有期雇用時の企業からの評価や人材派遣会社の採用選考などを踏まえて、一定の審査基準を上回る人材が派遣されます。そのため、有期雇用と比べて優秀な人材が派遣されやすい傾向があります。
無期雇用派遣を受け入れるデメリットは、以下の2点です。
<デメリット>
・料金が高くなる場合がある
無期雇用派遣は、有期雇用派遣(登録型派遣)の労働者より料金が高くなる場合があります。人材派遣会社は無期雇用派遣の雇用者に対して仕事がない待機期間も給与を払う必要があり、労働者のモチベーション維持として賞与や昇給制度を設けるケースも少なくありません。
・3年以内に離職する可能性もある
長期的な育成や定着を目的として無期雇用派遣を受け入れたとしても、職場とのミスマッチや労働者側の都合で、3年以内に離職する可能性があります。
4.有期契約労働者からの無期転換の申込みに関するQ&A
ここでは、有期契約労働者からの無期転換の申込みに関して、よくある質問と回答をご紹介します。
Q:有期契約労働者からの無期転換の申込みがあった場合、必ず無期転換する必要がある?
A:2013年4月1日以降に開始した有期労働契約の契約期間が通算5年を超える労働者が申込みをした場合、企業は必ず無期労働契約に転換する必要があります。
Q:無期転換申込権が発生する前なら労働者を解雇・雇止めしても問題ない?
A:無期転換申込権が発生する前に期間満了を理由に労働者を雇止めしても、法律上は問題ありません。
しかし厚生労働省によると、無期転換ルールの適用を避ける目的で申込権の発生前に解雇・雇止めを行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましくないとされています。
また、有期労働契約満了前に企業が一方的に更新年限や更新回数の上限を設けた場合、雇止めが許されない可能性もあります。特に、更新を繰り返して実質的に雇用期間の定めがない状態になっている場合や、更新時に契約書を取り交わしていない場合などは注意が必要です。
無期転換を避ける目的で意図的に解雇・雇止めすると、有効性に関して労働者との間に訴訟などのトラブルが発生するケースもあります。
Q:無期転換の申込みがあった労働者を解雇・雇止めできる?
A:労働者が条件を満たして無期転換の申込みを行った場合、企業が承認したものとして無期労働契約が成立します。
原則として企業が転換を断ることはできず、有期労働契約の満了時に更新を拒絶する意思表示を行った場合、労働者の解雇として有効性が判断されます。
労働契約法第16条によると、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合、企業は労働者を解雇できません。
まとめ
無期雇用とは、期間に定めのない労働契約のことです。有期雇用とは言葉通り雇用期間に定めがある契約で、無期雇用とは対照的な働き方と言えます。無期雇用派遣と正社員は雇用元と労働条件に違いがあり、正社員は勤務先に直接雇用されるのが通常です。
無期雇用派遣を受け入れると、同じ人に長期間働いてもらえるため採用コストなどの削減が可能になります。一方で労働者のモチベーションを維持するために賞与や昇給制度を設ける必要があるという側面もある点に注意が必要です。
有期契約労働者からの無期転換の申込みがあった場合、企業は必ず無期労働契約に転換する必要があります。社会通念上相当と認められない場合、企業は労働者を解雇できません。