リスキリングとは？注目される背景や導入するメリット・手順を紹介！
急速なDX推進やビジネス環境の変化に対応するには、従来の仕組みや人材だけでは限界があります。中小企業の経営者や人事部門の研修担当者の中には「必要なIT人材・デジタル人材を採用しても即戦力にならない」「既存社員のデジタルスキルが変化に追いつかない」といった課題を抱えている方もいるでしょう。こうした状況を打開する有効な手段が「リスキリング」です。
当記事では、リスキリングの基本や他の学び直しとの違い、企業が導入するメリットや具体的な進め方、導入事例について紹介します。人材戦略と事業戦略を結びつけ、持続的成長を実現するヒントとして参考にしてください。
目次
1. リスキリングとは？
リスキリングとは、社会や産業の変化に合わせて業務に必要な新しい知識やスキルを学び直し、将来の役割や仕事に対応できるようにする取り組みです。DX時代や技術革新の進展により従来のスキルが通用しにくくなる中で、個人の能力を再構築し、企業の競争力強化につなげる施策として注目されています。
1-1. リカレント教育との違い
リカレント教育は、一度職を離れて大学や専門機関で体系的に学ぶことを指し、キャリア形成や自己実現を目的とすることが多いです。主体は個人であり、定年後の教養学習や異分野の学位取得も含まれます。
一方、リスキリングは企業が変化に対応するために、従業員へ新しいスキル習得を促すものです。業務を継続しながら社内研修や実務を通じて行われるケースが多く、DXや産業構造の変化に即応するための実践的な学び直しと言えます。
1-2. 生涯学習との違い
生涯学習は、年齢や職業を問わず人生のあらゆる段階で行われる自主的な学びを指し、知識の向上だけでなく自己実現や社会参加、人生の充実を目的としています。学習の範囲も広く、学校教育から趣味、スポーツ、ボランティア活動まで多岐にわたります。
一方、リスキリングはその一部と捉えることもできますが、目的がより限定されており、仕事に必要な知識やスキルの習得に焦点を当てています。
2. リスキリングが注目されている背景・理由
リスキリングが注目される背景には、急速なビジネス環境の変化とDXの推進があります。世界経済フォーラムは「2030年までに10億人を対象とする」と掲げており、日本でも経団連や経済産業省がその重要性を強調しています。
デジタル技術の進化や在宅勤務の浸透、脱炭素化といった外部環境の変化に対応するため、政府は2022年に5年間で1兆円の支援を決定し、企業と連携したキャリアアップ支援事業を展開しています。人材不足を補い、企業が持続的な成長を実現する手段として、リスキリングは今や不可欠な施策となっています。
3. 企業がリスキリングを導入するメリット
リスキリングは単なる学び直しにとどまらず、企業の成長戦略に直結する施策です。ここでは、企業が従業員へのリスキリングを導入することによる具体的なメリットを解説します。
3-1. 業務効率を高められる
リスキリングによって従業員が新たなスキルを身につけると、これまで人手に頼っていた作業をデジタル化・自動化でき、業務効率化が進みます。データ活用や情報の統合管理を進めることで判断の精度も上がり、付加価値の高い業務に時間を充てられます。
その結果、組織全体の生産性が向上し、従業員の残業削減などのワーク・ライフ・バランス改善にもつながります。
3-2. 新しいアイディアを生み出せる
リスキリングを通じて従業員が新しい知識や視点を得ることで、従来にはなかった発想や改善の着想が生まれやすくなります。新規事業の立ち上げや既存サービスの刷新に直結するだけでなく、業務のマンネリ化を打破し、社内の活性化にも寄与します。
学び続ける姿勢が根付けば、時代の変化に柔軟に対応し、イノベーションを起こす基盤となるでしょう。
3-3. 従業員のエンゲージメント向上につながる
企業がリスキリングの機会を提供することは、従業員のキャリア形成を支援する取り組みとなり、モチベーションの向上や組織への帰属意識を高めます。自ら学び成長できる環境が整うことで、仕事への主体性が育まれ、生産性の向上にもつながります。
従業員が安心して長期的に活躍できる環境を築けるため、結果としてエンゲージメントと定着率の両方の向上が期待できます。
3-4. 採用コストの削減につながる
労働人口減少で採用が難しくなる中、リスキリングは既存人材を戦力化できる有効な手段です。外部からDX人材を高コストで採用する代わりに、既存人材の専門性を高めれば、人材不足を補いながら採用コストを削減できます。
リスキリングに積極的な企業は学習意欲の高い人材を引き寄せやすく、長期的な採用力の強化にも寄与するでしょう。
4. 企業がリスキリングを導入する手順
リスキリングを効果的に導入するには、場当たり的な学習支援ではなく、経営戦略と事業戦略の双方に連動した明確なステップを踏む必要があります。下記では、社内にリスキリング制度を導入する基本的な手順を紹介します。
| 1 | リスキリングの定義を設定する |
|---|---|
| まず、自社におけるリスキリングの定義を明確にします。経営方針や中長期的な事業戦略と照らし合わせ、どのような人材像やスキルが必要なのかを具体化しましょう。現状のスキルとのギャップを分析することで、優先的に強化すべき能力が見えてきます。 | |
| 2 | リスキリングの目的・必要性を周知する |
| 従業員がリスキリングの必要性を理解していなければ、前向きに学習に取り組めません。 業務負担と受け取られないよう、キャリアアップや市場価値向上など個人にとってのメリットを丁寧に伝えましょう。学習時間を就業時間内に確保することも、意欲向上に効果的です。 | |
| 3 | 教育プログラムを決定する |
| 社内研修やeラーニング、外部講師や専門教材の活用など、多様な手段を組み合わせることで、従業員の習熟度に合わせて学習を進めやすくなります。教育プログラムを複数用意することは、学びの継続性の向上にも有用です。 | |
| 4 | 実際に従業員に取り組んでもらう |
| 従業員に強制的に受講させるのではなく、本人の意思を尊重しつつキャリアビジョンと結びつけて進めることが大切です。1on1面談などを通じて、リスキリングへのモチベーションを維持させましょう。 | |
| 5 | リスキリングしたことを実践する |
| プロジェクトへの参加や業務改善への適用など、学んだ内容を実務で生かす場を設けると実践力が養われます。さらに、成果や課題を共有し合う場を設ければ、学びが個人にとどまらず組織全体に広がり、継続的なスキル強化を図る企業文化が根付きます。 | |
5. リスキリングを導入した企業事例
リスキリングは多くの企業で実際に導入され、成果を上げています。ここでは、具体的な事例を通じて、その効果や実践のポイントを紹介します。
- 株式会社 日立製作所
- 住友生命
- 富士通
株式会社日立製作所は、「日経リスキリングアワード2024」で企業・団体総合部門の最優秀賞を受賞しました。学習プラットフォーム「LXP」や企業内大学「日立アカデミー」、ジョブディスクリプションの整備など、多角的な施策が高く評価されています。さらに、ソニーグループとの相互副業や生成AI人材育成などの新手法にも挑戦し、日本企業のリスキリングのスタンダードとして注目されています。
出典：HITACHI「日立が「日経リスキリングアワード2024」において「企業・団体総合部門 最優秀賞」を受賞」
住友生命は「職員のウェルビーイング」を重視し、自律的な学びを支援する多様なリスキリング施策を展開しています。キャリア目標を可視化する「リスキル・マイキャリア運営」や自己啓発費用の補助、第一人者を招いた「ゆう活講座」、eラーニング環境を含む学習環境の整備などを通じて、継続的なスキルアップを後押ししています。
出典：住友生命「人的資本」
富士通はジョブ型人事制度やポスティング制度の拡大を軸に、人材の流動性向上とリスキリングを推進しています。スキルを可視化するツールやデジタルバッジの開発、カフェテリア形式の教育コンテンツの提供など、多様な仕組みを整備し、社員のキャリアオーナーシップと企業の変革を加速させています。
まとめ
企業においてDXを進める上で、人材の育成は重要な経営課題の1つです。外部からの即戦力採用だけに頼るのではなく、既存社員をリスキリングによって成長事業に対応できる人材へと変革させることが、持続的な競争力につながります。
リスキリングには、事業戦略に直結するさまざまなメリットが期待できます。学習基盤の整備やスキル可視化の仕組みは成果に直結し、DX実現を加速させる強力な手段となります。リスキリングを人材戦略の中心に据え、組織と従業員の成長を両立させ、変化に強い企業基盤を築きましょう。