在職老齢年金の支給停止調整額とは?改正内容や年金の計算方法を解説
在職老齢年金は、働きながら年金を受け取る高齢者にとって重要な制度であり、企業の人事・給与設計にも密接に関わります。特に2026年4月の制度改正により支給停止調整額が引き上げられたことで、従来よりも働きながら年金を受け取りやすい環境が整いました。
一方で、「働くと年金が減るのではないか」「どの程度の収入で調整されるのか」といった疑問を持つ人も少なくありません。当記事では、在職老齢年金の基本的な仕組みや計算方法、最新の改正内容を整理し、実務にも役立つ形で分かりやすく解説します。
目次
1. 在職老齢年金とは?
在職老齢年金とは、働きながら老齢厚生年金を受け取る人の賃金と年金額に応じて、年金の一部または全部が支給停止される制度です。
65歳以降も会社員や公務員として働く場合、給与と老齢厚生年金の合計額が一定の基準を超えると、超えた分に応じて年金の支給額が調整されます。収入が高いほど年金の一部が停止される仕組みであり、働く高齢者の収入バランスを整える役割を持ちます。
この制度は、一定以上の収入がある人の年金給付を調整することで、公平性を保ちながら年金制度を維持する目的で設けられています。在職老齢年金は、働く高齢者を対象とした制度であり、企業の給与設計や雇用管理にも影響します。
2. 支給停止調整額とは?
支給停止調整額とは、在職老齢年金において年金が減額されるかどうかを判断する基準となる金額です。
働きながら年金を受け取る場合、給与と年金の合計額が一定の水準を超えると支給停止が発生します。その際に基準となるのが支給停止調整額であり、この金額を超えるかどうかで年金の減額有無が決まります。
ここでは、支給停止調整額について紹介します。
2-1. 年金が支給停止されるかどうかを判定する基準額
支給停止調整額は、年金が支給停止されるかどうかを判断するための基準額です。
在職老齢年金では、「基本月額」と「総報酬月額相当額」を合計し、その合計が支給停止調整額を超えるかどうかで判定が行われます。合計額が基準以下であれば年金は全額支給され、基準を超えた場合に限り、超過分に応じて一部または全部が支給停止されます。
2-2. 基本月額と総報酬月額相当額の合計額と比較する金額
支給停止調整額は単独で用いるものではなく、基本月額と総報酬月額相当額の合計額と比較して使う基準値です。
在職老齢年金の判定では、まず年金額を月額換算した「基本月額」と、給与や賞与を基に算出する「総報酬月額相当額」を合算します。その合計額と支給停止調整額を比較することで、支給停止の有無や停止額が決まります。この仕組みを理解することが、正確な年金計算の前提となります。
2-3. 2026年4月以降の支給停止調整額は65万円
2026年4月以降の支給停止調整額は65万円に引き上げられています。
従来は2025年度まで51万円とされていましたが、制度改正により65万円へと変更されました。この引き上げにより、給与と年金の合計額が同じであっても、以前より支給停止に該当しにくくなっています。
年間では約30万円程度受給額が増えるケースもあり、働きながら年金を受け取る高齢者にとって影響の大きい改正です。
3. 在職老齢年金の計算方法
在職老齢年金は、「基本月額」と「総報酬月額相当額」をもとに、支給停止の有無と金額を判断します。企業の給与設計や人件費管理にも関わるため、各要素の意味を正確に理解しましょう。
3-1. 基本月額
基本月額とは、加給年金額を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分を月額に換算した金額です。
老齢厚生年金は年額で支給されますが、在職老齢年金の計算では年額を12で割った月額ベースで扱います。この際、配偶者などに支給される加給年金額は含めず、あくまで報酬比例部分のみを対象とします。たとえば、老齢厚生年金の年額が120万円の場合、基本月額は120万円÷12で10万円となります。
3-2. 総報酬月額相当額
総報酬月額相当額とは、毎月の給与に加えて、過去1年間の賞与を月額換算した金額を合算したものです。具体的には、標準報酬月額に加え、直近1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を加算して算出します。賞与も含めて評価する仕組みのため、年収全体が年金調整に影響する点が特徴です。
たとえば、標準報酬月額が47万円、年間賞与が132万円の場合、賞与の月額換算は11万円となり、総報酬月額相当額は58万円となります。企業の給与体系によっては、賞与の設計が年金支給額に影響する点に注意が必要です。
3-3. 支給停止額の考え方
支給停止額は、基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えるかどうかで決まります。
合計額が65万円以下であれば、老齢厚生年金は全額支給されます。一方で65万円を超えた場合は、超過分の2分の1が支給停止額として差し引かれます。仕組みとしては「超えた分だけ一部減額される」イメージです。
例えば、基本月額10万円、総報酬月額相当額58万円の場合、合計68万円となり、基準を3万円上回ります。この場合、超過分3万円の半分である1万5千円が支給停止となります。制度全体としては、収入が増えるほど段階的に年金が調整される設計です。
4. 在職老齢年金に関する2026年4月の改正内容・背景
2026年4月の制度改正では、在職老齢年金の支給停止に関する基準額が見直され、働きながら年金を受け取りやすくなりました。従来は一定以上の収入があると年金が減額されやすい仕組みでしたが、基準額の引き上げにより、収入があっても年金が減りにくい設計へと変更されています。
ここでは、改正の内容と背景を具体的に解説します。
4-1. 改正内容:支給停止調整額が51万円から65万円に引き上げ
2026年4月の改正では、支給停止調整額が従来の月51万円から65万円へ引き上げられました。この変更により、給与と老齢厚生年金の合計額が同じであっても、従来より支給停止に該当しにくくなっています。
たとえば、合計額が56万円の場合、2025年度までは基準を超えていたため一部が支給停止となっていましたが、2026年度以降は基準内に収まり、全額支給となります。年間ベースでは数十万円規模で受給額が増えるケースもあり、働きながら年金を受け取る高齢者にとって実質的な収入増加につながる改正です。
4-2. 改正背景:高齢者が働きやすい仕組みに見直されたため
今回の改正は、高齢者が働きやすい環境を整える目的で実施されています。
平均寿命や健康寿命の延伸により、65歳以降も働き続けたいと考える人が増えています。内閣府の調査では、60代の約5割が66歳以降も就労を希望しており、企業側でも人材確保や技能継承の観点から高齢者の活躍が求められています。
一方で、年金が減ることを避けるために労働時間を調整する動きも見られ、就労意欲の抑制が課題となっていました。基準額の引き上げはこうした課題への対応策であり、働きたい人が収入を気にせず就業できる環境を整えるための制度見直しと位置づけられます。
5. 総務・人事担当者が押さえたい在職老齢年金のポイント
在職老齢年金は給与が減る制度ではなく、一定条件で老齢厚生年金が調整される仕組みである点を正しく理解しましょう。
給与と年金の合計額が基準を超えた場合にのみ年金が一部停止されるため、必ずしも「働くと損になる」制度ではありません。また、総報酬月額相当額には月給だけでなく賞与も含まれるため、賞与設計によって支給停止の有無が変わる点にも注意が必要です。
高齢社員からの相談対応では、個々の年金額や給与条件によって結果が大きく異なるため、画一的な判断は避ける必要があります。具体的な判断には、最新の制度情報を踏まえ、日本年金機構など公的機関の情報を確認しながら対応することが大切です。
まとめ
在職老齢年金は、一定以上の収入がある場合に年金額が調整される制度であり、給与そのものが減る仕組みではありません。基本月額と総報酬月額相当額の合計が基準を超えた場合にのみ支給停止が発生するため、収入全体で見れば必ずしも不利になるとは限らない点が重要です。
2026年4月の改正により支給停止調整額が65万円に引き上げられたことで、従来よりも就労と年金受給の両立がしやすくなりました。企業にとっても、高齢人材の活用や賃金設計を考える上で無視できない制度です。実際の影響は個々の年金額や給与条件によって異なるため、判断に迷う場合は日本年金機構などの公的情報を確認しながら対応しましょう。




