リテンションマネジメントとは?導入のメリットや施策例を解説
人材不足や働き方の多様化が進む中、企業にとっては「人材をいかに確保するか」だけでなく、「いかに定着させるか」が重要な経営課題となっています。採用市場が売り手優位の状況では、新たな人材を獲得し続けるだけでは限界があり、既存従業員が安心して働き続けられる環境づくりが欠かせません。
そこで注目されているのが、リテンションマネジメントです。リテンションマネジメントは、給与や評価制度、働き方、キャリア形成などを総合的に見直し、従業員の離職を防ぎながら組織力を高める考え方です。
当記事では、リテンションマネジメントの基本的な意味や注目される背景、導入によるメリット、具体的な施策例について分かりやすく解説します。
目次
1. リテンションマネジメントとは
リテンションマネジメントとは、優秀な人材が離職せず、企業の中で力を発揮し続けられるように支える人事の考え方です。リテンション(retention)は「維持」「保持」を意味し、人事分野では人材を組織に定着させるという意味で使われます。もともとは既存顧客を維持するマーケティング用語でしたが、人材の流動化が進む中で、人事マネジメントにも取り入れられるようになりました。
具体的な取り組みには、給与や評価制度の見直し、スキルやキャリア形成の支援、職場環境や社内コミュニケーションの改善、柔軟な働き方の導入などがあります。終身雇用が前提でなくなった現在、従業員が「ここで働き続けたい」と感じられる環境づくりは、離職率の抑制だけでなく、企業の競争力を高める上でも重要なテーマです。
2. リテンションマネジメントが注目される理由
リテンションマネジメントが注目されている背景には、人材を「採る」よりも「定着させる」重要性が高まっている現状があります。
まず、日本では少子高齢化の影響により労働力人口が減少しています。このような状況では、新たな人材を十分に確保することが難しく、既存従業員の離職防止が経営課題となります。また、新卒社員の早期離職も深刻で、厚生労働省の調査では大卒新卒者の3年以内離職率は33.8%とされ、業種によっては3人に1人以上が短期間で退職しています。採用や育成にかかるコストを考えると、離職率の低下はコストパフォーマンス向上の観点からも欠かせません。
さらに、年功序列や終身雇用を前提としない働き方が広がり、転職や副業を希望する人も増加傾向にあります。こうした環境下では、従業員が安心して働き続けられる仕組みを整えることが企業の競争力維持に直結するため、リテンションマネジメントへの関心が高まっています。
3. リテンションマネジメントを導入するメリット
リテンションマネジメントは、離職率の低下だけを目的とした施策ではありません。従業員が安心して働き続けられる環境を整えることで、組織全体の生産性や安定性を高める効果が期待できます。
ここでは、リテンションマネジメントを導入する具体的なメリットを解説します。
3-1. 採用コストを抑制できる
リテンションマネジメントを導入することで、採用にかかるコストを抑えやすくなります。従業員が離職すると、採用のために求人広告の掲載費用や選考にかかる人件費、入社後の教育・研修コストが発生します。特に近年は採用市場が売り手優位となっており、優秀な人材を確保するための費用負担は年々増加しています。
人材定着率が高まれば、突発的な欠員補充の必要性が減り、計画的な採用が可能になります。また、新入社員の教育に割いていた時間や労力を、既存従業員の業務改善や付加価値の高い仕事に振り分けることもできます。結果として、採用と教育にかかるコストの両面を抑えながら、組織全体の効率化を図れるでしょう。
3-2. 従業員エンゲージメントが向上する
リテンションマネジメントは、従業員エンゲージメントの向上にもつながります。評価制度や報酬体系の見直し、キャリア形成支援、働きやすい職場環境の整備などを行うと、従業員は自分が大切にされていると感じやすくなります。その結果、仕事への意欲や組織への信頼感が高まり、自発的に成果を出そうとする姿勢が生まれます。
エンゲージメントが高い従業員は、業務への理解度が深く、周囲との協力関係も築きやすい傾向があります。これは個人のパフォーマンス向上だけでなく、チームや組織全体の生産性向上にも寄与します。従業員が前向きに働ける状態をつくることは、離職防止と同時に、企業価値の向上にもつながります。
3-3. 知識や技術の流出を防げる
人材の定着は、企業が長年かけて蓄積してきた知識や技術を守ることにもつながります。従業員が離職すると、業務ノウハウや顧客対応の経験、社内特有の暗黙知が失われてしまいます。場合によっては、顧客情報や技術情報が社外に流出するリスクも否定できません。
リテンションマネジメントによって従業員との信頼関係を強化し、働き続けたいと思える環境を整えると、こうしたリスクを低減できます。経験豊富な従業員が長く在籍することで後進への知識継承も進み、事業の継続性や競争力を維持しやすくなる点も大きなメリットです。
4. リテンションマネジメントの施策例
リテンションマネジメントを効果的に進めるためには、従業員の不満や不安が生まれやすいポイントを把握し、具体的な制度や仕組みとして落とし込むことが大切です。給与や評価、働き方、コミュニケーション、キャリア形成などは、離職理由として挙がりやすい要素でもあります。これらを総合的に見直し、従業員が安心して長く働ける環境を整えることで、人材定着と組織力の強化につながります。
ここでは、マイナビおよびリクルートの統計調査をもとに、リテンションマネジメントの具体的な施策例について解説します。
4-1. 人事評価制度や報酬の見直しを行う
人事評価制度や報酬の見直しは、リテンションマネジメントの基本となる施策です。評価基準が不明確なままでは、従業員は自分の努力が正当に評価されていると感じにくく、不満や不信感につながりやすくなります。そのため、どのような行動や成果が評価され、報酬に反映されるのかを明確にし、透明性のある制度を整えましょう。
また、成果だけでなくプロセスや貢献度を評価する仕組みを取り入れることで、納得感を高めやすくなります。評価と報酬の関係が分かりやすくなれば、従業員は目標を持って働きやすくなり、定着率の向上が期待できます。
4-2. 社内のコミュニケーションを改善する
社内コミュニケーションの質は、人材定着に大きな影響を与えます。上司や同僚との関係性が悪い職場では、業務上の小さな不満が蓄積し、離職につながりやすくなります。
その対策として、メンター制度や1on1ミーティングを導入し、定期的に対話の機会を設ける方法が有効です。業務の進捗だけでなく、悩みや不安を共有できる場をつくることで、問題を早期に把握しやすくなります。併せて、意見を否定せずに受け止める心理的安全性の高い職場風土を育てれば、従業員の安心感や帰属意識が高まり、離職防止につながります。
4-3. 勤務形態をより柔軟なものにする
勤務形態の柔軟化は、ライフステージの変化による離職を防ぐ有効な施策です。育児や介護、健康上の理由などにより、従来と同じ働き方が難しくなるケースは少なくありません。短時間勤務や時間単位の有給休暇制度、テレワーク制度などを導入することで、従業員は状況に応じた働き方を選びやすくなります。
大切なのは、制度を整えるだけでなく、周囲が理解し活用しやすい環境をつくることです。柔軟な働き方を認める文化が根付けば、従業員は無理なく働き続けられ、人材定着につながります。
4-4. キャリアの目標を明確にする
将来のキャリアが描けないことは、離職を考える大きな要因の1つです。そこで、早期選抜制度やキャリアアドバイザー制度などを通じて、従業員が自分の将来像を具体的にイメージできるようにしましょう。定期的なキャリア面談を行い、本人の希望や強みを踏まえたキャリアパスを示せば、「この会社で成長できる」という実感を持ちやすくなります。
また、研修や新しい業務への挑戦機会を用意することで、従業員の成長意欲も後押しできます。キャリアの見通しが立つ環境は、従業員のモチベーション維持と長期的な定着に大きく寄与します。
まとめ
リテンションマネジメントは、優秀な人材の流出を防ぎ、企業の持続的な成長を支える取り組みです。少子高齢化や転職の一般化により、人材の定着はこれまで以上に難しくなっています。その中で、評価や報酬の透明化、社内コミュニケーションの改善、柔軟な働き方の導入、キャリア支援といった施策を通じて、従業員の満足度やエンゲージメントを高めることが可能です。
自社の課題や従業員の声を踏まえながら、継続的に制度や環境を見直すことが、リテンションマネジメントを成功させるポイントです。




