人材確保等支援助成金とは?9つのコースについてわかりやすく解説
人材確保等支援助成金は、職場環境の改善など「魅力ある職場づくり」に取り組む企業を支援する制度で、サービス業や建設業など人材不足に直面している業種には特に有益です。
少子高齢化や労働力不足が深刻化する中、中小企業にとって人材確保等支援助成金は従業員の定着率向上や人材獲得に役立ちます。
この記事では、人材確保等支援助成金の概要と9つのコースについて、それぞれの支給対象・支給要件・助成額をわかりやすく解説します。
目次
1.人材確保等支援助成金とは
人材確保等支援助成金は、魅力ある職場づくりのために労働環境の向上などに取り組む事業主や事業協同組合等に支給される助成金です。少子高齢化が進む日本において、職場環境の改善を通じて、人材の確保・定着を図ることが目的です。
企業が従業員の待遇改善や育成、働きやすい環境づくりに取り組む際に、国がその費用の一部を助成することで、企業の積極的な取り組みを後押ししています。現在は国の働き方改革目標に伴い、従業員の評価制度見直しやテレワーク導入、建設業の人材確保策などさまざまな取り組みに応じた複数のコースが用意されています。
2.人材確保等支援助成金の9つのコース
人材確保等支援助成金には、企業の取り組みに応じて選べる9つのコースがあり、それぞれ支給対象となる取り組み内容や条件、助成額が異なります。また、各コースは国の施策の変更によって廃止・新設されるため、利用にあたっては最新情報をチェックしましょう。
以下では各コースの支給対象、支給要件、助成額を紹介します。
2-1.雇用管理制度助成コース
少子高齢化や労働力不足が深刻化する中、中小企業にとって人材確保等支援助成金は従業員の定着率向上や人材獲得に役立つ心強い制度です。
支給対象 | 諸手当制度や研修制度などの雇用管理制度を新たに導入し、従業員の離職率低下に取り組む事業主 |
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主な支給要件 | 雇用管理制度の導入、および離職率低下目標の達成など |
助成金額 | 57万円 |
出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度助成コース)」
要件を満たした上で、従業員の人数に応じて、3~15%の範囲内で離職率低下目標を達成すれば、助成を受けられます。
令和4年4月1日以降、新規の計画受付は休止中となっています。
2-2.中小企業団体助成コース
中小企業団体助成コースは、事業協同組合や商工会などの中小企業団体が、構成員である中小企業の人材確保・定着を目的とした事業を行う場合に助成されます。
支給対象 | 構成中小企業の人材確保や職場定着を支援する事業(例:合同企業説明会の開催など)を行う中小企業団体(事業協同組合など) |
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主な支給要件 | 人材確保・定着支援のための計画について行政の認定を受け、事業協同組合などが実際に支援事業を実施すること |
助成金額 | 経費の2/3を助成 ※上限額は団体規模に応じ 600~1,000万円 |
出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(中小企業団体助成コース)」
支給対象となるためには、改善計画を作成する必要があります。改善計画とは、中小労確法に基づいて、中小企業の労働力の確保・良好な雇用の機会の創出のために策定する計画のことです。
2-3.人事評価改善等助成コース
人事評価改善等助成コースは、企業が人事評価制度を導入・改善し、それに基づいて賃金制度を改定した場合に助成されるコースです。
支給対象 | 従業員の賃金アップを含む人事評価制度を新たに整備し、生産性の向上や賃金アップ、離職率の低下に取り組む事業主 |
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主な支給要件 | 賃金アップを伴う人事評価制度を導入し、離職率低下や賃金引上げ目標を達成すること |
助成金額 | 80万円 |
出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(人事評価改善等助成コース)」
要件を満たした上で、「賃金の3%以上アップ」「離職率の低下に関する目標」のすべてを達成した場合、助成を受けられます。
人事評価改善等助成コースは令和6年4月1日より、新規計画の受付を再開しています。
2-4.建設キャリアアップシステム等普及促進コース
建設キャリアアップシステム等普及促進コースは、建設業の事業主団体が、建設キャリアアップシステム(CCUS)の導入を促進するための活動を支援するコースです。
支給対象 | 建設事業主団体が、中小建設事業主等に対してCCUSの導入を支援・促進する事業。 (例:CCUSの登録費用補助、手続き支援、ICカードリーダー等機器導入促進など) |
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主な支給要件 | 上記のCCUS普及促進事業を実施していること(事業内容に応じて補助対象経費を支出し完了していること) |
助成金額 | 中小建設事業主団体の場合:経費の2/3 中小以外の建設事業主団体の場合:経費の1/2 |
建設労働者の処遇改善やキャリアパスの明確化を図り、若年者の建設業への入職・定着の促進や、魅力ある労働環境づくり、職業能力開発を促進することなどが目的の助成です。
2-5.若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)
若年者及び女性に魅力ある職場づくり事業コース(建設分野)は、建設業における若年者や女性の就業促進のために、職場環境を改善する企業や団体を支援するコースです。
支給対象 | 建設業において若年者や女性の入職・定着を促進する事業を行った建設事業主・建設事業主団体、または建設作業の訓練推進を行った職業訓練法人 |
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主な支給要件 | 若年者・女性の雇用管理改善(入職支援や定着促進)に資する取り組み、または建設職場での技能訓練の推進活動を実施していること |
助成金額 | 中小建設事業主の場合:経費の3/5 ※支給上限額は200万円 |
助成にあたっては、雇用改善や研修制度の推進など、若年者・女性に魅力ある職場づくり事業を行う必要があります。若年者・女性に魅力ある職場づくり事業は、「技能の向上を図るための活動等に関する事業」や「労働災害予防等のための労働安全管理の普及等に関する事業」など、7つの種類があります。
2-6.作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)
作業員宿舎等設置助成コース(建設分野)は、建設業の労働者向けに宿舎や作業員施設を設置する事業主に対して助成されるコースです。
支給対象 | 以下のいずれかに該当する事業主等 1.岩手県・宮城県・福島県に所在する作業員宿舎、作業員施設・賃貸住宅を賃借した中小建設事業主 2.自ら施工管理する建設現場に女性専用作業員施設を設置(賃借)した中小元方建設事業主 3.認定訓練に必要な施設や設備を新たに設置・整備した広域的職業訓練法人 4.石川県に所在する作業員宿舎・賃貸住宅・作業員施設を賃借した中小建設事業主 |
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主な支給要件 | 上記の宿舎や施設等の賃借・設置に関する計画届を策定し実施していること(対象地域・条件に該当すること) |
助成金額 | 1の場合:経費の2/3 2の場合:経費の3/5(賃金要件を満たせば3/4) 3の場合:経費の1/2 4の場合:作業員宿舎は1人あたり25万円、その他(賃貸住宅・作業員施設)は経費の2/3 |
助成の対象となる賃借料には、作業員施設の本体にかかる賃借料や資機材の搬入に係る運搬費などが挙げられます。
2-7.外国人労働者就労環境整備助成コース
外国人労働者就労環境整備助成コースとは、外国人労働者の職場環境を改善し、長期定着を促すために、社内のルール整備や多言語対応を行う企業を支援するコースです。
支給対象 | 外国人労働者の職場定着を促進するため、就業規則や労務管理体制の多言語対応など就労環境の整備に取り組む事業主 |
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主な支給要件 | 雇用労務責任者の選任、就業規則・社内規程の多言語化などの就労環境整備措置を導入・実施し、離職率低下の目標を達成すること |
助成金額 | 経費の1/2(上限57万円)を助成 ※賃金要件を満たす場合は2/3(上限72万円)に拡大 |
出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」
支給対象経費は、通訳費や翻訳機器導入費、弁護士・社会保険労務士などへの委託料が対象です。
2-8.テレワークコース
テレワークコースは、中小企業が新たにテレワーク制度を導入し、働きやすい職場環境を整備する場合に助成されます。
支給対象 | 良質なテレワーク制度を新たに導入し、労働者の働きやすさ向上や雇用管理改善によって人材確保等に効果を上げた中小企業事業主 |
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主な支給要件 | 機器等導入助成:計画期間中にテレワーク実施対象の全労働者が少なくとも1回以上テレワークを実施することなど 目標達成助成:評価時の離職率が計画時の離職率以下であること など |
助成金額 | 機器等導入助成:テレワーク機器等の導入費用の50% 上限は以下のいずれのうち低い金額 目標達成助成:上記取り組みの結果目標達成時に経費の15%を追加支給(賃金要件を満たせば25%に増額) ※支給額の上限は以下のいずれかのうち低い金額 1企業あたり100万円 |
出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」
なお令和6年4月1日より、テレワークを既に導入していて、実施を拡大する事業主も対象となっています。
2-9.派遣元特例コース
派遣元特例コースとは、派遣元事業主が派遣労働者の賃金制度を改善し、待遇向上を行った場合に助成されるコースです。
支給対象 | 労使協定の定めにより、令和6年5月24日~令和7年3月31日の間に派遣労働者を対象とした新たな賃金制度を整備または改善した派遣元事業主 |
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主な支給要件 | 賃金制度の整備・改善を実施した派遣元事業主 ※その他にも、平均賃金の差額支払いなど諸条件あり |
助成金額 | 5万円+派遣労働者1人あたり1万円の合計額を支給 ※支給額の上限は実際に要した経費の総額まで |
出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(派遣元特例コース)」
派遣元事業主に対して助成することによって、派遣労働者の雇用の安定や、待遇の確保を推進する目的です。
3.人材確保等支援助成金を申請するときの注意点
助成金の申請にあたってはいくつか注意すべきポイントがあります。
まず、人材確保等支援助成金は基本的に後払いであるため、計画した取り組みに必要な経費は一旦すべて自社で負担し、要件を満たして初めて助成金が支給されます。
また、助成対象となる経費の支払い時期にも注意が必要です。計画届の提出前に経費を支払った場合、その費用は助成対象外となるため、計画内容が受理されてから計画を実行する必要があります。
他にも、申請書類の不備や提出期限の遅れがないように注意しましょう。
まとめ
人材確保等支援助成金は、職場環境の改善や人材定着の取り組みを経済的に後押ししてくれる制度で、人材不足や高い離職率に悩む企業にとって心強い支援策と言えます。9つのコースそれぞれに特徴があるので、自社の状況・業界に合ったコースを選択してください。
人材確保等支援助成金を上手に活用すれば、社員にとって魅力的な職場づくりが進み、結果として企業全体の生産性向上や成長につながります。制度の最新情報を確認しつつ、適切なコースへの申請を検討しましょう。