有給休暇の取得義務化とは|人材派遣を利用する会社が押さえたいこと
有給休暇とは、一定期間勤続した労働者に対して付与される休暇のことです。労働者の心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障することを目的に導入された制度であり、勤務日数によってはアルバイト・パートも有給休暇を取得できます。派遣労働者も例外ではありません。
会社は、労働者に対して有給休暇を取得させる必要があり、労働者からの申請を受けなかった場合、罰則が生じるケースがあります。
そこで今回は、年5日の有給休暇の取得義務化について、対象者や期限、違反した場合の罰則を紹介します。また、人材派遣を利用する会社が行うべきことも解説するので、有給休暇の取得義務化について詳細に知りたい人はぜひ参考にしてください。
目次
1.年5日の有給休暇の取得義務化とは?
年5日の有給休暇の取得義務化とは、一定日数以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して年5日は会社から働きかけ、確実に休ませる義務のことです。
年次有給休暇はワークライフバランスの実現をサポートするために必要な仕組みであるものの、申請をためらう人が多くいました。そのため、働き方改革を推進すべく労働基準法改正が実施されて、確実に労働者を休ませる義務が会社に課されています。
1-1.有給休暇の取得義務化の対象者
取得義務化は、年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者を対象とするルールです。以下は、年次有給休暇が10日以上付与される労働者の詳細を示します。
- 入社から6か月間継続雇用されている正社員、有期雇用労働者
- 入社から6か月間継続雇用されている、週5以上出勤もしくは年間所定労働日数217日以上のパートタイム労働者
- 入社から3年6か月以上継続雇用されている、週4出勤のパートタイム労働者
- 入社から5年6か月以上継続雇用されている、週3出勤のパートタイム労働者
週2出勤以下のパートタイム労働者は入社後何年経過しても年次有給休暇の付与日数が10日以上にならないため、対象者に含まれません。
1-2.有給休暇の取得義務の期限
有給休暇の取得義務化には適用猶予期間がなく、早急な対応が必要です。会社は、労働者が入社してから6か月が経過して、労働日の8割以上出勤している場合に、年次有給休暇を付与します。年次有給休暇を付与した日が、取得義務化における「基準日」です。基準日から1年以内に会社は時季を指定し、労働者に5日の年次有給休暇を取得させる必要があります。
会社が時季指定を行う際には、以下の配慮が必要です。
- 労働者自身に時季の希望を聞く
- できる限り希望が通るように努める
ただし、時季指定を行う前に労働者が年次有給休暇を請求・取得している場合や労使協定で計画年休の取り決めがある場合、会社に義務は発生しません。つまり、「会社側からの時季指定」「労働者自身からの請求・取得」「計画年休」のうちのいずれかで、5日をクリアすれば事足ります。
2.派遣労働者に有給休暇を取得させるのは「人材派遣会社」
派遣労働者に対しても当然、労働基準法の労働条件に関するルールは適用されます。しかし、派遣労働者の勤怠管理は原則、雇用契約を結んでいる「人材派遣会社」の仕事です。そのため、人材派遣会社には有給休暇の義務化にともなう責任が課され、一定条件に該当する派遣労働者を適時、休ませる必要があります。
なお、派遣労働者が同じ人材派遣会社で働く場合は派遣先の変更後も、年次有給休暇の残日数を持ち越すことが可能です。ただし、働いていない期間が長期になると「継続雇用」の条件を満たせず、残日数が消滅する可能性もあります。
3.有給休暇の取得義務化に違反した場合の罰則
取得義務化に対する適切な対応を取っていない会社は労働基準監督署から法律違反を問われて、罰則を科されるリスクがあります。たとえば、年5日の年次有給休暇を取得させなかった会社への罰則は、1人あたり30万円以下の罰金です。労働者の請求に従って年次有給休暇を与えなかった場合には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金を科されるリスクがあります。
ただし、取得義務化へ対応していない会社は即座に罰則を科されるわけではありません。以下は、労働者の告発などによって労働基準法違反の疑惑がかかってから送検されるまでの一般的なフローです。
労働基準監督官による会社への立ち入り調査、事情聴取など
↓
(法律違反が発覚した場合)文書指導、是正勧告
↓
再度の立ち入り調査、事情聴取など
↓
(悪質な事案の場合)送検
また、年次有給休暇の取得義務化において使用者が時季指定を行う場合には、就業規則への記載が必要です。記載を怠った会社は、30万円の罰金を科されるリスクがあります。
4.有給休暇の取得義務化にともない会社が行うべきこと
取得義務化にともない、会社では効率的かつ正確に有給管理を行う仕組みを作ることが必要です。また会社では、年次有給休暇を取得しやすい環境を整えるための対策を立てる必要もあります。
以下では、有給休暇の取得義務化にともない会社が行うべきことを詳しく解説します。
4-1.年次有給休暇取得の計画表を作成する
年次有給休暇の取得しやすい環境を整えるためには、年度別や月別に「年次有給休暇取得計画表」を作成して職場内で共有しましょう。年度別の計画表には、労働者ごとの基準日・年次有給休暇付与日数・基準日時点における取得予定などを記載します。
月別の計画表は、業務の進捗状況などに応じて取得時季を調整するために作成する資料です。月別の計画表を作成する際には労働者ごとの取得日数を確認して、計画との乖離を把握しましょう。
さらに、計画表の作成に合わせて、年次有給休暇の取得を前提とした業務体制を整えることも大切です。たとえば属人的な仕事を減らし、チームとして仕事を行う業務体制を整えると、年次有給休暇の取得を後押しできます。
4-2.計画的付与制度を導入する
計画的付与制度とは、年次有給休暇の付与日数から5日を除いた残りを労使協定などに従って会社側が計画的に割り振ることを認める制度です。たとえば付与日数が11日の労働者に対しては6日を労使協定などに従い、計画的に割り振れます。
以下は、計画的付与制度の導入後に年次有給休暇を割り振る方式の選択肢です。
一斉付与方式 | 夏季休暇や会社の創立記念日などを作り、すべての労働者を同じ日に休ませる方法 |
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交替制付与方式 | 閑散期などに合わせて、班やグループごとに休ませる方法 |
個人別付与方式 | 年次有給休暇付与計画表を作成し、労働者ごとに休ませる方法 |
いずれの方式を取るとしても、計画的付与制度を導入する会社は就業規則で、以下の旨を定める必要があります。
前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
引用:厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」引用日2023/02/20
また、計画的付与制度を導入する会社は労使協定で、以下の項目を定めることも必要です。
①計画的付与の対象者
計画的付与の時季に育児休業や産前産後の休業に入ることが分かっている者や、定年などあらかじめ退職することが分かっている者については、労使協定で計画的付与の対象から外しておきます。
②対象となる年次有給休暇の日数
年次有給休暇のうち、少なくとも5日は労働者の自由な取得を保障しなければなりません。したがって、5日を超える日数について、労使協定に基づき計画的に付与することになります。
③計画的付与の具体的な方法
- 事業場全体の休業による一斉付与の場合には、具体的な年次有給休暇の付与日を定めます。
- 班、グループ別の交替制付与の場合には、班、グループ別の具体的な年次有給休暇の付与日を定めます。
- 年次有給休暇付与計画表等による個人別付与の場合には、計画表を作成する時期とその手続き等について定めます。
④年次有給休暇の付与日数が少ない者の扱い
事業場全体の休業による一斉付与の場合には、新規採用者などで5日を超える年次有給休暇がない者に対しても、次のいずれかの措置をとります。
- 一斉の休業日について、有給の特別休暇とする。
- 一斉の休業日について、休業手当として平均賃金の60%以上を支払う。
⑤計画的付与日の変更
あらかじめ計画的付与日を変更することが予想される場合には、労使協定で計画的付与日を変更する場合の手続きについて定めておきます。
引用:厚生労働省「事業主の方へ」・・引用日2023/02/20
計画的付与制度の労働者にとってのメリットは、年次有給休暇を取得する際の後ろめたさが軽減されることです。また、計画的付与制度を導入すると会社側には、労務管理を行いやすくなるメリットがあります。
4-3.年次有給休暇の時季指定をする
有給休暇の取得義務化によって、会社には労働者ごとの年次有給休暇管理簿(有給休暇の取得状況や基準日などを記録する書類)を作成し、3年間保存する義務が課されました。
厚生労働省などが配布するフォーマットを参考にして管理簿を作成し、一人ひとりの取得状況を確認しましょう。そして、未消化が目立つ人もしくは取得申請しないことが予想される人には、年次有給休暇の時季指定を行います。
4-4.有給休暇の未消化がある社員に取得を促す
年次有給休暇の取得しやすい環境を整えるためには、未消化がある労働者へ声を掛けて取得を促す方法も検討されます。あわせて年次有給休暇に関して人事担当者・経営者などと労働者が話し合う機会を設け、意識を変えてもらいましょう。
労働者の中には年次有給休暇を取得すると、「チームのメンバーに迷惑がかかる」「人事評価に影響する」などと考える人もいます。話し合いによって意識が変われば未消化が起こりにくくなり、人事部門の負担軽減につながるでしょう。
まとめ
年5日の有給休暇の取得義務化とは、一定日数以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日は確実に休ませる義務を指します。働き方改革を推進するため、労働基準法改正が実施されました。
派遣労働者に対しても有給休暇の義務化は適用されますが、派遣労働者の勤怠管理は雇用契約を結んでいる人材派遣会社の仕事となります。
有給休暇の取得義務化にともない、会社は有給休暇の条件に当てはまる労働者に対して、取得しやすい環境づくりが必要です。義務とはいえ、仕事への影響を考えて取得をためらう人は一定数います。特に未消化がある社員には声を掛け、取得を促しましょう。